出版社内容情報
極限と日常のはざまを生きた詩人・石原吉郎。苛酷なシベリアの体験を経て、紡ぎ出された作品世界をその生涯とともに丹念に跡づける。
内容説明
死と隣り合わせの重労働と飢え、そして人間に対する過度な不信…。厳寒の地シベリアで詩人は何を体験し、日本社会に何を見たのか。62年の生涯を丹念にたどり、詩からエッセイ、短歌俳句まで精緻に読み解き、戦中・戦後体験と透徹した作品世界を捉えなおす。
目次
第1章 記憶としての言葉―体験と作品の関係をめぐって
第2章 昭和一〇年前後の青春―誕生から応召まで
第3章 鹿野武一との出会いと戦争体験―応召からシベリア抑留まで
第4章 シベリアの日々―抑留から帰国まで
第5章 失語から詩作へ―帰国、そして『ロシナンテ』という楽園
第6章 詩集『サンチョ・パンサの帰郷』の世界―その三つの層をめぐって
第7章 強制された日常から―語り出されたシベリア
第8章 早すぎる晩年の日々―旺盛な詩作と突然の死
著者等紹介
細見和之[ホソミカズユキ]
詩人。大阪文学学校校長。大阪府立大学教授。1962年、兵庫県篠山市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学、大阪大学)。ドイツ思想専攻。主な著書に『「戦後」の思想』(白水社、日本独文学会賞)、『家族の午後』(澪標、三好達治賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ステビア
23
優れた評伝である 石原の詩を読みたくなる2021/03/09
どら猫さとっち
7
「海と望郷」「サンチョ・パンサの帰郷」の作者の生涯を描いた評伝。石原吉郎は僕が気になっていた詩人で、「石原吉郎詩文集」も読んでいた。彼がシベリアで抑留し、人生の極限を生きていたことも知っていた。本書を読み、彼の硬質な文体から、静かな確固たる生命力がみなぎっていた。「死」「疲労について」を綴ったとき、彼は自分の最期を予感したのか、突然人生を終える。彼の文章に触れるたび、生きることの厳しさと苦悩、それを貫き越えた喜びが見えてくる。彼の良き理解者の詩人仲間の鮎川信夫の「詩がきみを」は、身に染みる。2019/05/12
ToshihiroMM
2
石原吉郎の詩とシベリア抑留体験エッセイとを分けて解釈したいと考える派の著者。石原の『望郷と海』に収録されたエッセイの多くは、シベリア体験を語ることの困難さも相まって、本来出来事に備わる曖昧性・中間性を石原特有の言葉遣いで極端な論理に押し込めてしまっていると批判する。しかし、僕が個人的に一番示唆を受けたのは石原の自意識の問題である。彼の自己愛と自己嫌悪の強烈な葛藤がシベリアの理想化に向かわせた節があることが読みとれ、なんともいたたまれない気持ちになったと同時に共感もした。2019/10/22
kentaro mori
1
そのバックグラウンドからどうしても神格化してしまう石原吉郎を、その枠から外し、詩そのものを評論している。2020/04/26