出版社内容情報
ジイド(一八六九‐一九五一)が贋金使用事件と少年のピストル自殺という二つの新聞記事に着想を得て,実験的手法で描いた作品.私生児の生れに劣等感を抱く青年や作家の分身とも思われる作家,少年を使って贋金を流す男,級友のいじめにより強いられて自殺する少年など,無数の人物が登場して錯綜した事件の網目模様を繰り広げる.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
108
思春期は残酷だ。傷つかずに通り過ぎることはできない。その中で決定的に立ち上がれないまでに衝撃を受ける者が時にいる。その禊を無事に終えられたものは、自立に向かっていく。または再び親の温かい愛情に素直に帰っていく。生贄となったボリスは、その死によって皆に力を与えた。ベルナールは、ローラとそのお腹の子と触れ合うことで自分と父のつながりを見出す。ボリスやヴァンサンを地獄に追いやった者は、エドゥワール。彼は知らずに周りを巻き込む。ほら、もう次の獲物を見て舌なめずりをしているようだ。若者は悪い大人に気をつけるように。2016/04/14
NAO
51
人気はあるけれども実は虚飾に満ちた卑俗な小説家でしかないパッサヴァンが少年たちにとって悪への先導者でしかないというところで、「文学論」と「世の中に溢れる偽物」という二つのテーマは一つになっていく。「贋金」という寓喩は、暗澹としたこの小説の中で何とも不気味な力を持つが、それは、現代において、あまりにも「贋金」が氾濫しすぎているからだろうか。2016/07/05
うらなり
27
最後のほうは作者が疲れてしまい結論を急いで少し緻密さに急に欠けるような気がする。でも名作はなぜかこころに残り、ふとしたことでなぜ、ジョルジョは死のうとしたか、ボリスは死ぬ必要があったのかを思い出される。2021/04/04
ハチアカデミー
20
小説にしかできない人物の描き方とは何か、を追求したジイドは、おそらく人間の関係性から生まれる様々な感情の揺れを描く方法を選んだ。主要人物であるベルナールとオリヴィエの二人の周辺人物・関係人物たちが蜘蛛の巣の様に作品世界を作り上げていく。そこでは、金銭のやり取りと感情のやり取りが繰り広げられる。本当の「金」は二人の友情のはずなのに、周辺の「贋金」に振り回されていく。本当の「愛」に辿りつかない男女もいる。後世への影響の大きさを感じさせられる傑作だし、ちゃんと楽しめる、面白い小説である。相関図は必要だけど。2015/03/27
フリウリ
16
全編を通じて、「作者」の視点と、登場人物の一人「エドゥアール」の視点(による手紙)とで構成されていますが、「作者」自らが小説内でほのめかしているように、前半のほうがより遊びの要素が強く、後半はふつうの小説になっていきます。奔放で悪に魅せられる子弟らの思考と行動は、フランスの保守的・宗教的な社会状況を背景として考えないといけないと思うのですが、なかなか醜悪です。ヌーヴェルヴァーグの映画を見ているようでもあり、いかにもフランス的な小説の一つといえるのかもしれません。1925年刊。82024/06/30