出版社内容情報
石像に地獄へと連れ去られる例のドン・ファンとは別に,奇怪なある出来事を転機に半生を烈しい悔悛に生きたもう一人のドン・ファンがいるのだと物語る『ドン・ファン異聞』.他に『ヴィーナスの殺人』『熊男』を収録.これら三つの短篇にみなぎる奇妙な迫真力は『カルメン』の作者メリメ(一八〇三―七〇)ならではのものである.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ニミッツクラス
33
【日本の夏は、やっぱり怪談】〈其の二・洋編〉86年(昭和61年)の450円の文庫初版。メリメの、怪奇側へ振れつつもやはり文学している3短編を収録。巻頭「ドンファン異聞(=煉獄の魂)」は怪奇譚なのか…悔悛してもテレサ(=アガート尼)一家は良い処無しだが。2作目「ヴィーナスの殺人(=イールのヴィーナス)」は良い。漆黒のヴィーナス像からして不気味で、さらに動くとしたら石像よりブロンズ像の方が怖いよ。ラスト「熊男(=ロキス)」は、主人公伯爵が“何の”子供なのか、母親の狂気の原因と併せて推測せよ…。★★★★☆☆2024/08/02
松本直哉
29
『ドン・ファン異聞』は、複数のドン・ファン像が融合して伝説が成立したとする著者の、その中のひとりの色男の物語。服を取り替えて別の女性に言い寄ったり、今までに誘惑した女性のリストを作ったりする挿話はお馴染みだが、大きく違うのは、結末で主人公が前非を悔いて修道院に入るところで、最後まで悔い改めないモーツァルトの主人公とは異なり、彼の眼前には殺した者の霊がさまよい、煉獄の炎がちらつく。ドン・ファンを生んだ国は、同時にアヴィラの聖テレサや十字架の聖ヨハネやロヨラを生んだ国でもあることを今更ながら思い出させる2023/06/27
藤月はな(灯れ松明の火)
14
「ドン・ファン異聞」は悪魔に命を助けられた者に感化された放蕩と女たらしの代名詞にもなったドン・ファンの物語。ドン・ファンが自分の死と亡き友人(悪魔に助けられた者)と悪魔の訪れを目のあたりにして改心しても一時の激情によって善行を無にしてしまう無常さにぞっとしました。そしてどれほどの善行を重ねようともその罪は神でも救えなかったのではないかと思ってしまいます。「ヴィーナスの殺人」と「熊男」は悲劇に向かうまでの過程のねっとりとした不気味さに鳥肌が立ちました。2011/11/08
フリウリ
8
「ドン・ファン異聞」「ヴィーナスの殺人」「熊男」を所収。「熊男」はリトアニア、他の2つはスペインが舞台です。物語それ自体がおもしろい一方で、19世紀の書き手、また読み手はどのような物語を欲したかが垣間見えることが、興味深いと思いました。メリメは「歴史記念物監督官」という職にあり、キリスト教を基盤として、博物学的、文献学的、民族学的視点をもつ人であったことがうかがえます。72024/04/09
Ribes triste
8
優美で禍々しい怪奇譚3編。贅沢な時間を過ごした気分です。2018/07/29
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- 和書
- あげくの果て