出版社内容情報
『スカパンの悪だくみ』とならぶ喜劇.主人公スガナレルは若い頃医者の家で働いたことがあるが,今は飲んだくれの木こりで,夫婦喧嘩が絶えない.たまたま名医を探しに二人の男がやってくる.女房マルチーヌは亭主に仇討をする絶好の機会とばかりに亭主を医者に仕立てたが,さて,くり拡げられる珍妙な笑いの数々.一六六六年.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
128
「ル・ミザントロープ」の不入りを支えるために書かれた作品で、これ単独で上演されることはなかったらしい。ファルスは、あくまでも本格的なドラマの添え物としての存在ということのようだ。世話浄瑠璃のようなものだったか。劇の初演は1666年だから、日本でもまもなく元禄文化の時代だ(もっとも、近松の活躍は18世紀初頭だが)。さて、劇そのものだが、もう徹頭徹尾風刺精神に満ちている。とりわけ揶揄されるのが医者の存在だ。しかし、新興のブルジョワジーもまた、主人公の医者に攪乱されながら相対化され、観客たちに笑いのめされる。2014/03/09
のっち♬
127
復讐を目論む妻の策略で"ぶん殴らないと正体を白状しない医者"に仕立て上げられた薪つくりの百姓。一説では知的過ぎて不人気な『人間嫌い』の添え物として書かれたという大衆派笑劇。『飛び医者』同様ファブリオー由来で、作者の持病を治せない医者への不信が通底する。賢者を盾に取り、金次第で死人に口なしと患者を蔑ろにし、畢竟碌でなしでも成りすませる存在に媚び諂う民衆たち、そんな権威主義への風刺精神が機智と滑稽味となって間断なく飛び交う。オチのご都合主義と懲りない様子まで徹底的。レトロなドタバタ系の笑いが好きならオススメ。2023/09/21
Y2K☮
30
久し振りにモリエールの戯曲を。ありがちといえばありがちな設定。いわゆる名作とか大作の類ではないかもしれないが、こういう肩の凝らない純粋な娯楽としてのお芝居を楽しむのもなかなか贅沢な時間だと思う。医師に代表されるパターナリズムというか一種の権威主義を茶化して喝采を浴びるのは、かの蔦屋重三郎が文武道徳だの倹約だのを押し付けてくる時の御政道を揶揄する本を出し、庶民にバカ売れした構図とよく似ている。短くて楽しくてスカッとする。そして後には何も残らない。また明日から面倒臭い現実で踏ん張る。それがエンタメの王道かも。2025/09/29
壱萬参仟縁
26
ジェロント家の召使ヴァレール曰く、「大したものですな、偉い人っていうものは、すべて どこか気まぐれなところがあって、学問のなかにちょっぴり気違い水がまじってる」(21頁)。 揶揄と考えてよいだろうか。 あとがきによると、諷刺的な小説のファルス。これは、民衆の日常生活を滑稽なタッチでえがいた一幕ものの芝居(98頁)。2014/03/14
藤月はな(灯れ松明の火)
25
嫁を打つ為に嫁の復讐によって医者と勘違いされ、医者にされたスナガレル。「口が効けない娘をどうにかしてくろ」と言われ、なけなしの知識と婚約者の助力を借りて口を効けるようにしたものの今度は駆け落ちとさあ大変だ、首をちょん切られるぞ!何だかんだ言いながらも金はしっかり貰い、しっかり役目を果たすスナガレルの筋の通りっぷりは笑えます^^2012/10/18