出版社内容情報
「第三之書」発表までには十余年の歳月が経過し,ラブレーを取り巻く社会情勢は更に厳しくかつ複雑化した.本書では家臣パニュルジュの結婚是非について様々な意見が述べられるという筋立てでラブレー流の女性論議が開陳される.前二作の巨人物語風は影をひそめ,陰影に富んだ含蓄深い文章にラブレーの精神がこめられる.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
てれまこし
12
第一之書から12年を経て上梓された本書は、前二巻とは大分趣きが違う。当時人文主義者の間で流行った女性論争に、パニュルジュの結婚問題を通じて参与したらしい。やはり猥雑で滑稽だが、より人文的教養が前面に出てくる。数百の形容詞をつけられた「ふぐり」が2,3頁にわたり列挙されてるのは壮観だが、そうやってラテン語を取り入れることでフランス語の語彙が豊かになっていったらしい。日本語もまた外来語の摂取を通じて近代語になっていったが、フランス語も16世紀に人文主義者たちによって同様の過程を経て初めて近代語になったらしい。2022/09/14
roughfractus02
9
自身を弄ぶように、本名をアナグラム化したアルコフリバス・ナジエ(Alcofribas Nasier)の名で前2作を世に出した作者だが、この10年で2作とも禁書目録に入れられ、国王の特認を得て本名を明かして本書を出版したという。物語内容もパンタグリュエルの荒唐無稽な話からパニュルジュの結婚の是非と彼の妻を他の男に寝取られない知恵を聞きに各地の知者を巡るという身近なテーマにトーンダウンしたかに見える。が、プラトン対話篇をパロディにかける本書には対話を終わらせる賢者はいない。いるのは対話を長引かせる愚者だけだ。2019/09/30
mstr_kk
6
『パンタグリュエル物語』の続編。第二の書ほどの興奮はありませんでした。コキュとなることを異常に恐れるパニュルジュの結婚相談の話を、大量のペダントリーと挿話で膨らませている感じです。個々のエピソードには面白いものもあります。結婚をめぐる物語なので、生殖の主題が入ってきているのが興味深かったです。また、「結婚してみないと結果は分からない」ということになるほかはないパニュルジュの話に、サイコロというモチーフが絡んでいるのかなと思いました。2014/10/28
Fumoh
5
第三の書は冒険というよりパンタグリュエルの結婚問題を延々と論じるという会話劇。女性論もある。従来のくだらない道化師トークっぷりも続いているが、それより印象的だったのはモラリスト的な記述が散見されるようになったこと。作り話なんだか、どっかの文献で読んだ話なんだかわからないが、様々な民間伝承的なエピソードを話し、それを教養の一つの事実として結びつけるのは、まるでモンテーニュのようだった。相変わらず意味不明なストーリーが続いていくが、すこしラブレーの教養的な真面目な顔を見た思いだった。2025/02/28
takeakisky
3
こちらだって、神気朦朧として茫然自失、魔力妖気に呪縛される。第三之書に至って、やっと大人の読みものになってきた。下らなくも馬鹿馬鹿しい蘊奥を惜しげもなく繰り出す。果たして正しい知識かは全く分からない。おそらく使う場面も訪れないだろうけれど。面白いと退屈の、少し退屈寄りを果敢に突いてくる。興奮しやすいが、あくまでも理性的。何処か狙いすました阿呆らしさ。パニェルジュの愛らしさ。退屈なものを面白がるというのは、文化的な成熟の証左。飽きない。くだらない。という風に読んだ。222頁下段校閲ミス。ちゃんと全部読んだ。2023/12/24