出版社内容情報
「サン=クルーの風見」.フーシェにつけられた仇名である.フランス革命期にはもっとも徹底した教会破壊者にして急進的共産主義者.王制復古に際してはキリスト教を信ずることのきわめて篤い反動的な警務大臣.フーシェは,その辣腕をふるって,裏切り,変節を重ね,陰謀をめぐらし,この大変動期をたくみに泳ぎきる.
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みつ
40
『メリー・スチュアート』、『マリー・アントワネット』に続き、ツヴァイクの伝記3作めを読了。毎回名訳に感心するが、それというのも原文が素晴らしいことがひとつの要因か。全てが明らかになった時点から歴史を再構成する著者の文は、多くの対句的表現を交えながら重厚にして華麗、緊張感を孕み個々の描写は生彩に富む。フーシェは、セント・ヘレナ島に流されたナポレオンが「完全無欠な裏切者」と呼び、フランス革命から王政復古の時代まで、何度かの失脚を得ながらも生き延びた陰謀者。この時代のもう一人の黒幕として名高いタレーランとを➡️2024/10/04
masabi
26
【要旨】激動の時代を生きた日和見主義者 ジョゼフ・フーシェの評伝。【感想】権力のための権力を追求し、最後には権力に身を滅ぼされた男。忠誠とは無縁な生きざまはフランス革命とナポレオン帝政を見事に生き抜く処世術のひとつだったのだろうか。途で権力の拡大を志向し権力に溺れていくのがまさに権力を追求していった男の人生そのものを思わせる。陰謀を張り巡らす、人を支配する快楽は相当なものなのかな。2017/05/19
ぱなま(さなぎ)
23
ロベスピエールもナポレオンも乗り越え、なんども権力から転落してはまた這い上がり、権力の趨勢を巧みに読みながら、遂にはトップに上り詰めた男。偉人となるには精神の崇高さが欠けすぎているが、世を読む才には長けていたのでしょう。偉大な男こそ生き延びるのがひどく困難な、革命後の世界。もしフーシェが同時代の同国の政治家だったなら、怒りと嫌悪が爆発するところでしょうが、こうして時間を超えて彼の人生を語られてみると、二転三転しながらも窮地を脱出するダークヒーローを思わず応援しながら読んでしまっている自分に気がつきます。2019/02/16
傘緑
23
「リヨンは自由と戦いを交えたり――リヨンはもはやあらず」 シャルリー・エブド的笑いの根源、元凶がこの男である。早すぎた大粛清であり、早すぎた毛沢東主義であり、何より悪いのは思想も信条も理想も、完璧な保身の心得以外まるで持っていないような男が、ジャコバンも震えあがるようなテロルをやってのけたことで、その点で超越的なアイヒマンと言えるかもしれない。そして何よりすごいのは血に溺れなかったことである。エジョフやポルポトは殺人の罪悪感を払拭するため虐殺にすがりつく形で破滅したが…フーシェの保身は人間性を超越してます2016/09/20
壱萬参仟縁
19
1930年初出。 フーシェは人民を、フランス市民全体、 祖国国境を守り、労働によって社会を養って いる、無数の貧民階級のことだと思っている。 不義にして富める者は正しい革命家たりえない(43頁)。 「失敗してはじめて芸術家は作品に対する自分の真の 関係を学び、敗北してはじめて将軍はみずからの誤りを 悟り、失脚してはじめて為政家は真の政治的達観を 得る」(124頁)。いいこと言うねぇ。2014/04/16