出版社内容情報
芸術性と世俗性のきびしい対立をあつかった悲劇.ギリシアの高名な女流詩人ザッフォオは芸術家としての栄誉に疲れ,美青年ファオンの胸に平凡な人間的幸福を求めるが果たさず,ついに断崖から海中に身を投じ詩神のもとに帰る.透明な構成,あざやかな性格描写,美しくととのった表現などの諸点で,古典美のひとつの極限を示す.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
qoop
5
一人の女性として幸せを求める心が嫉妬の毒を生み、詩の女神に比する自らの才能を蝕むとき、彼女はどう処するのか… まさにサッフォーの伝説に血肉を与える物語。俗世と芸術の間で懊悩する主人公の姿は真に迫り、その心の内を斟酌しない周囲の無思慮が厭わしく思えてならなかった。様々な視点が生み出す落差がドラマティックな盛り上がりにつながり、ラストへと突き進む構成も巧い。2017/09/06
sk
3
古代ギリシャの女流詩人の史実を劇化した作品。心理の機微がよく描かれている。2021/02/09
Nemorální lid
2
古代希臘の有名詩人ザッフォオを描いた悲劇。史実を参考にしているが、決して史実通りではない。そこに作者グリルパルツェルの名を不動のものにさせた「世俗性」と「芸術性」の対比を示しているのは言うまでもないだろう。 ザッフォオの「神々よ、この人たちをどうか祝福なさって下さい。そしてわたくしをお受け入れ下さい。」(p.207)という台詞がこの著作の全てを表している。 クライマックスへ繋がる展開の技巧の凝らしは素晴らしく、ここまで纏まる完結は寧ろ清々しささえ覚える代物だ。2018/01/30
meirokun
0
史実を基に書かれたようです。召し使いのメリッサさん、御主人様にすっさり骨抜きにされて…最後まで憐れみを捨てきれなかったのですね。悲劇なのでオチが重要ですね。悲しかった…。2010/10/28
Lieu
0
とても良かった。芸術性と世俗性の葛藤というが、人間臭い悲劇として読んだ。自分が大切にしてきた娘に、ひそかに恋している相手の心があり、嫉妬のあまりその娘を遠ざけようとすると、相手の男に憎まれ、死なざるを得ない。主人公の控えめな性格も切なさを掻き立てる。2020/02/09