出版社内容情報
現代アメリカ文学を牽引し、その構図を一変させた稀有の作家による、革新的な批評の書。ウィラ・キャザー『サファイラと奴隷娘』、ポー、トウェイン、ヘミングウェイらの作品を通じて、アメリカ文学史の根底に「白人男性を中心とした思考」があることを明るみに出し、構造を鮮やかに分析すると共に、その限界を指摘する。
内容説明
ハーバード大学での講義から生まれた、人種問題をめぐる革新的な批評の書。キャザーやポー、トウェイン、ヘミングウェイの作品を通じて、アメリカ文学史の根底に「白人男性を中心とした思考」があることを明るみに出し、差別の構造を鮮やかに分析する。
目次
第1章 黒さは重要
第2章 影をロマン化する
第3章 不穏な看護師たちと鮫たちの親切
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
69
開かれているようで、実は閉じている国、アメリカ。その文学は白人男性が担い、文学によって白人男性を頂点に階層が分け隔てられている事を国民へ刷り込んできた。その点についてトニ・モリソンは言及する。特にヘミングウェイの作品から彼が徹底的に黒人を「登場”人物”」としても扱わなかった事が言及された時の衝撃といったら。それに気づけなかったのは多民族と肌の色に関連しての問題に対する認識不足を改めて思い知らされた。2023/11/18
キムチ
61
薄い冊だが、中身は非常に難解。後部掲載により、何とか理解の一歩に繋がった。それもそのはず、ハーバード大の講義から生まれた批評書とある。21Cを迎え 米の分断と迷走は怖くなるほど。モリスンが生きていたら、どう言葉を編むだろう。新大陸に降り立った「白人」はWASPが主・・仏、伊、西の南欧系は後続。キリスト教と言えども新教旧教は差異がある。ネイティヴアメリカンが住む土地を流血で力づくでもぎ取った歴史 アフリカから連れてきた黒人は道具として使われた(黒人という語は悍ましく嫌)白人という言葉は歪んだ歴史の上に「一部2024/03/06
nobi
56
ひらがな訳もあるような「青い眼がほしい」の作家が書いたとは思えない硬質のアメリカ文学批評。「人種に関する決まりきった連想」から決別し、例えばヘミングウェイの『持つと持たぬと』の会話の語り手や人称の微妙な選択に彼自身の黒人への人種観が潜んでいることを指摘する。さらに希望と自由に溢れているとされてきたアメリカの暗闇を抱えた白人作家たちが、奴隷制を引き摺り自由を束縛された黒人をなぜ作品に登場させるのか、そこからアメリカにおける白人の精神構造を読み解く。訳者都甲氏のアメリカ精神史の名講義のような解説に助けられる。2023/11/04
セロリ
44
私には難解だった。でも訳者解説を読むと、かなりわかる。そして、モリスンの文章はプロにとっても難しいと知り、少し慰められた。この本を読むと、WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)が生み出した人種主義とそれに基づく人種差別は、とても強固で難攻不落に思える。それはアメリカだけじゃなく世界中に蔓延っていると思うし、文学作品がそのプロパガンダに手を貸したとも感じた。ここらで『普遍的な価値観』を問い直してみる必要があるだろう。ヨーロッパの男性知識人の価値観だけを指しているのではないですか?と。2023/10/22
紡ぎ猫
14
所謂Systemic racismというやつ。アメリカ文学とされているものはほぼ全て白人男性によって書かれたものであり、そこには黒人の存在が全く無視され、ないもののようにされているが、実は黒人がいなければ米社会は成り立たない。自分も無意識に白人男性の文学を読み、知らず知らずのうちに固定観念を形成してしまったのかも。こんな話を聞いたことがある。奴隷制時代、白人女性は奴隷の黒人男性の前でも平気で服を脱いでいたとか。なぜなら黒人を人間として見ていなかったから。私達がペットの前で何のためらいもなく服を脱ぐように。2024/02/26