内容説明
コンプソン家の現在を描き、物語にいっそうの奥行きを与える後半。「奇蹟が起きた」と言われるこの作品の成立によって、フォークナー独自の創造世界は大きく開花し、世界の文学に幅広く影響を与えた。のちに書かれた「付録」も収録。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
150
「天は自ら助くる者を助く」この故事が読書中、ずっとあった。この家の者たちは、どうして自らを救おうとしなかったのだろう。酒に溺れる父も、不運を嘆く母も、自らの不幸に囚われ子供を省みない。子供はそれぞれ破滅に向かう。唯一地元に残っている者が生き延びたと言えるだろうか。彼が一番の破滅の証拠かもしれない。しかし、彼の利己的な卑しさと彼の兄姉たちの利己的な弱さと、どちらが非難されるべきものか。下巻読了後に第一章に戻ると、彼らの弱さを非難するより哀れで可哀想で…、救いの手を伸ばすものがいなかった事がかなしくなった。2016/08/21
buchipanda3
121
「この世のありとあらゆる声にならない苦しみが、深く救いのない音を発したかのようだった」。何度も「だまるだよ」と言われ続けたベンジー。彼はその匂いを純粋に感じ取った、南部の栄光ある系譜と純潔なる血筋の宿命と儚さを。それは言葉では示せないが彼は表現した。「おらは始めと終わりを見ただ」、ディルシーは涙しながら言う、人間の悲しげな響きと怒りをもたらした始めと終わりを。それは没落への憐れみではなく、ただ4人の兄妹弟がそこに居て、その時代を生きたという証を、南部の歴史に居た彼女が意味を持って見守り続けた思いなのだ。2022/11/01
のっち♬
109
第三章は一家の経済を支える次男に視点が写り、時間軸に秩序のある語りになる。物欲に取り憑かれた彼は魅力的な人物ではないが生い立ちは不遇とも言えるもの。第四章は黒人の召使を中心に据えた三人称視点。愛と信仰に生きる彼女の姿は一家とコントラストをつけている。ラストシーンは虚無感と不安感を残す強烈な演出が施されていて、タイトルにマッチしたもの。読み終えてみると一見気ままでも各章にしっかりと相補性があったことがわかる。センテンス一つ一つに至るまで緻密な構成力と多彩な表現技巧が光るが、人物一人一人にも生きた血を感じた。2018/01/08
キムチ
57
作品の後半に入り3章はジェイソンの呟き、4章は黒人召使の語り。上巻とは異なり当たり前の言動が連なることもありついて行き易い。兄亡き後一家の柱となった次男の想いは屈折を交え苛立ち焦燥憤怒など種々が入り混じる。黒んぼと呼ぶ神経に彼の生の想いが如実・・訳はそこを苦心したのか口語調で生の人間性が露呈している。4章は召使の目を通してのクェンティンが浮かび上がる。南北戦争の敗残後経済は一考に浮上せず差別問題は泥沼・・そんな南部でも人々は因習を守り愛す。ラスト~すべてが決められた通りの配置にあるのだがストンと治まらせる2024/01/30
NAO
40
フォークナーはキャディを描きたくて執筆したと解説にあったけれど、そのキャディの姿がどうにも伝わってこない。南部の象徴であるキャディは、南部が滅んだように滅ぶしかなかったのか。でも、娘を実家に預けたまま自分は実家を飛び出し他所でしっかりお金も稼いでいるらしいキャディって、なんだろうと思ってしまう。滅びの美しさは、ベンジーやクェンティンのような形でしか描けないのだろうか。ただ一人正常なジェイソンは正常ゆえにひどい描かれ方だが、こうやって新しい南部を作っていくしかないのだなと思う。頑張れ、ジェイソン4世。2015/09/08