出版社内容情報
老人と青年の対話の形で書かれたマーク・トウェイン晩年の著作.人生に幻滅している老人は,青年に向かって,人間の自由意志を否定し,人間は完全に環境に支配されながら自己中心の欲望で動く機械にすぎないことを論証する.人間社会の理想と,現実の利己心とを対比させつつペシミスティックな人間観で読者をひきつけてゆく.
内容説明
人生に幻滅している老人は、青年にむかって、人間の自由意志を否定し、「人間が全く環境に支配されながら自己中心の欲望で動く機械にすぎない」ことを論証する。人間社会の理想と、現実に存在する利己心とを対置させつつ、マーク・トウェイン(1835‐1910)はそのペシミスティックな人間観に読者をひきこんでゆく。当初匿名で発表された晩年の対話体評論。
目次
1 人間即機械・人間の価値
2 人間唯一の衝動―みずからの裁可を求めること
3 その例証
4 訓練、教育
5 再説人間機械論
6 本能と思想
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
absinthe
148
ソクラテス対話篇を思わせる哲学論文。登場人物は老人と若者。人間は機械であり、心の中の逆らい難い主人を満足させるためだけに動いていると結論する。なけなしの財産を可哀そうな人に分け与えるのも結局は心の中の主人を満足させるため。相手のためではない。おそらく人間はそのことを直視せず、幻想でくるんで胡麻化しているのだろうな。トムソーヤの作者が人間をそんな風に見ていたとは。読めば納得。素晴らしい人間観察。2023/01/09
ehirano1
120
これは確かに劇薬。岡本太郎さんとは違う種類の劇薬でした。しかしながら、著者自身が晩年に行き着いた結論(=人間の行動原理は機械≒プログラムされたシステムというかある種の行動原理のみに起因する)を誰かに否定してほしかったのかなぁとも私には思えました。2022/12/18
ベイス
69
人間の行動原理は「己が満足するかどうか」の一点のみ、という痛烈な考えの老人。よりよく生きたい、と理想に燃える青年。二人の問答を通じて、「人間とは何か」を考えさせる良書。青年は老獪な老人に終始かなわないのだが、老人の考えにも「限界」があると感じた。人間は「内なる主人」の衝動にしたがって自動的に動く機械に過ぎない、というのはその通りだが、その衝動をどう「正しい方向に導くか」という姿勢があれば、二人の考えが一致する道があるのではないか。そこに気づかないまま議論が平行線をたどるのが、少しじれったかった。2021/04/26
Major
68
これは最良の哲学•倫理学入門書である。あのトム•ソーヤのトゥエインではない。思想家トゥエインが僕たちに語りかける。"What is Man?"と。人間の本質について老人と青年の対話形式で議論が進む。人間の自由意志と性善を主張する青年の問いを悉く論破する老人の人間機械論。これは青年トゥエインと老人トゥエインとの、自己の魂の遍歴を振り返る対話でもある。「僕たち、まったくの機械ってわけですか!(中略)実にひどい独断ですね。」「独断じゃない。事実だよ。」僕の大学倫理学ゼミ初回の課題本であり、忘れ得ぬ一冊だ。2024/11/04
Gotoran
64
自由意志を主張する青年と人間は機械だと主張する老人との対話を通して『人間とは何か』を考える。青年は、人間の自由意志、他人への奉仕の高潔さ、創造性を熱く語っていくのに対して、常に、謙虚さ、誠実な心理を探求していると自認する老人は、人間は機械である、行動原理は自己満足から等と繰り返し主張していく。『ハックルベリーフィンの冒険』、『トムソーヤーの冒険』の著者マーク・トウェインが、晩年、ペシミスティックな人間観に基づき書いたと云う本作品を読んでみた。実に興味深かった。2022/12/25