出版社内容情報
某大使館に傭われてアナーキスト・グループにまじり内情を流す密偵ヴァーロック.上司は彼にグリニッジ天文台爆破を命ずるが,事態は思惑をはずれて意外な方向に…….巨大で陰欝な都市ロンドンにうごめく孤独で卑小な人物たちのドラマを,コンラッド(一八五七‐一九二四)は皮肉たっぷりの筆致で描きだす.近年再評価の声高い傑作長篇.
内容説明
某大使館に傭われてアナーキスト・グループにまじり内情を流す密偵ヴァーロック。上司は彼にグリニッジ天文台爆破を命ずるが、事態は思惑をはずれて意外な方向に…。巨大で陰欝な都市ロンドンにうごめく孤独で卑小な人物たちのドラマを、コンラッド(1857‐1924)は皮肉たっぷりの筆致で描きだす。近年再評価の声高い傑作長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
352
この小説が構成する暗く混沌とした世界を、訳者はカフカやドストエフスキーと比肩させているが、私が直ちに連想するのはやはりディケンズのロンドンである。そこを舞台に描かれるヴァーロックや他のアナーキストたちは徹底して戯画化され矮小化されている。その上部組織も、その対極にある警察もまた同様である。一方で、極力私的な位置に置かれているはずのウイニーもまた、彼らと等価である。つまりトータルな作品世界として浮上するものは、不条理なまでに存在の意味を剥奪されたそれである。私には作品世界を掴み切れなかった印象が拭えない。2018/08/09
ケイ
117
密偵、つまりスパイが主人公の話なのだが、スパイ小説ではないようだ。スパイをしている人々をめぐる胡散臭い人間模様が焦点のように思う。クールにうまくやっているように見えたヴァーロックを戸惑わせた爆弾テロの要請。彼にそれを強く要求することは、スパイ網を守ることからすれば逆効果だろうに。警察だって、うすうすわかっている。化かし合い、騙し合い、持ちつ持たれつ…。どちらが味方かわかったもんじゃない。底にあるものは、痛烈な皮肉だろう。「闇の奥」とは全く毛色が違うので、作者名を見なければとても同じ作家とは思えないなあ。2016/02/01
セウテス
87
コンラッド作品は、映画の原作である事が多いらしい。コンラッドの代表作「闇の奥」は、フランシス・コッポラの「地獄の黙示録」の原案と言われ、本作はヒッチコックの「サボタージュ」の原案と言われる。イギリスロンドンのあるテログループに、密偵として入りこみ情報を流していたヴァーロック。彼のスパイとしての物語かと思いきや、テログループの内情や人となりの描写となる。やがて全くの予想不能な人物が、主人公的に舞台に上がり、もはや人の低俗さや愚かさが描かれる。テロの社会的位置を、おっさんがしたり顔で喋り捲ったとしか感じない。2019/02/12
NAO
77
ヴァーロックによる天文台爆破テロ失敗は、実際にあったグリニッジ天文台爆破未遂事件を基にしている。だが、この作品は、スパイ小説というよりは、スパイ、アナーキスト、狂信的爆弾製造魔、革命家、警察、大臣…、といった様々な立場にある者たちの群像心理劇だ。登場人物の中で誠意が感じられるとすれば、それはヴァーロックの妻ウィニーの弟スティーヴィーへの愛と、スティーヴィーがヴァーロックに寄せる忠誠心ぐらいだろうか。ほかの者たちについては、誰もがその器の小ささに驚かされるが、特にヴァーロックの器の小ささに驚かされる。2018/01/16
雪月花
55
初コンラッドで最初はなかなか手こずった。密偵というタイトルから、主人公が大使館に呼び出されてスパイもののストーリーが始まると思いきや、爆破事件を起こすように命じられ、物語は何度も意表をつく展開を見せる。アナーキスト達の人間模様と心理描写、情景描写が巧みで面白い。スティーヴィー以外はみんな食わせもので、自分本位だが、人間というものはそういうものだし、コンラッドの皮肉たっぷりのこの作品は読み返せば、見落とした皮肉に更に気づけるかも。 【英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊の34冊目】2022/09/27
-
- 和書
- 百姓になるための手引