内容説明
憂鬱と情熱―相矛盾する複雑な感情を抱えた近代的自我の詩人バイロン(1788‐1824)は、“嵐の季節”とも言うべき時代の寵児として、36年の短く波瀾に満ちた人生を駆け抜けた。本書ではバイロンの詩の本領を伝えるべく、短篇の抒情詩よりも長篇の物語詩と劇詩の比重を大きくし、それぞれのハイライト部分を幅広く収録した。
目次
1 旅する魂
2 東方ロマンスの世界
3 内面世界の広がり
4 自我意識の崇高と呪い
間奏曲―政治意識の芽生え
5 ヴェネチア総督の「陰謀」
6 古代アッシリア、伝説の王宮の最期
7 諷刺と諧謔
8 抒情詩
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
111
読み応えのあるバイロンの対訳詩集。物語詩や劇詩が取り上げられているのが特長で、物語作家としてのバイロンも堪能できる。バイロンの詩は行動することによって、心に浮かんできたことをそのまま紙に書きつけたような勢いと瑞々しさがあり、内省的な他のロマン派の詩人との違いを実感した。巻末に収めれた2つの抒情詩はバイロンの総決算と呼べるもの。「オーガスタへの手紙」は恋多き男だったこの詩人の一人の女性に対する心情が切なく率直に綴られており、読者の胸を打つ。「一八二四年」はギリシアの独立に全てを捧げる決意が感動的だった。2015/04/21
lily
101
若さと恋情と美しさが集まった感覚の総量はジョンレノンのimagine流るるホワイトベットの空間と同等さ。その一方で気品ある孤高をも保っていたい。月が美しいですね、それは闇のおかげであることを忘れてはならない。2020/11/19
絹恵
37
胸に咲いた赤の行方を探すことは、誰にも穢すことは出来ない君を追うことのよう。それなら、赤に染まるのはやはり私のほうだった。夢のなかを期待して眠り始めるよりも、醒めない酔いのなかで逢いに行きたい。なぜならこの途切れ途切れに重ねた罪の深さも、愛の深さと等しく。(PSYCHO-PASS監視官 狡噛慎也4巻より鴇峰季國の本棚から)2017/10/22
有沢翔治@文芸同人誌配布中
11
短編詩よりは『チャイルド・ハロルドの巡礼』、『マンフレッド』、『海賊』……など長編詩からの収録が多い。ともあれ岩波の対訳イギリス詩人選シリーズは踏破。http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/archives/51488947.html2017/07/17
歩月るな
9
「ああ天よ赦したまえ、こう思うにつけ涙も流れたが、同時に笑いも浮かんだのだ――」「ぼくの欠点は、多分みんな、君が知っている。ぼくの狂気は、誰も知らない。」読んでいて楽しいものに仕上がっている。最強と言うか、最狂でありながら、正常であり続けた大英雄。世界を変えられる力を持っていた、疑いなく本物の傑物。天はそんな彼を生き永らえさせることをよしとしなかったと見える。略伝は至極大河ドラマだが、他の詩人に比べて簡潔で、しかし誰よりも濃いはず。行き着く果ては。「だが 我らは彷徨い 枯れ 他の地で死んでゆかねばならぬ」2018/07/20