出版社内容情報
トロイアー遠征からようやく帰還したアガメムノーンを待ち受けていたのは,留守の間に不義を重ねていた妻クリュタイメーストラーと,父アトレウスの王位争いに始まる,一家の血にまみれ呪われた運命であった.新訳.
内容説明
戦争は何故起り、何をもたらすのか。ギリシアの総大将アガメムノーンは、ついにトロイアーの都イーリオンを攻略し、帰還した。しかしその朝、彼を待ち受けていたのは、留守の間に不義を重ねていた王妃クリュタイメーストラーと、アトレウス家の王位争奪に端を発する、一族の血にまみれ呪われた運命であった。現存最古の戦争批判文学。新訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
96
この劇の初演は、ソポクレスの『オイディプス』に約30年先行するのだが、作劇法は決定的に違っている。ギリシャ演劇史に明るくないので、断定的なことは言えないが、それは年代的な差であるよりも、作家の資質の違いによるのではないかと思われる。『アガメムノーン』は、劇であるとはいっても、コロスや登場人物たちのセリフ(口上)がやたらと長く、むしろ叙事詩を複数の語り手が語っているという印象である。したがって、ソポクレスの劇に見られるようなドラマティックな展開はそこには見られない。つまり、葛藤が劇を引き裂かないのだ。2013/07/06
藤月はな(灯れ松明の火)
62
復讐神に呪われた血筋に生まれついたアガメムノーンの非情な運命の話。真実を話しているのに決して信じられないカッサンドラの予言の内容の悍ましさに身を震わせるしかない。姦淫の罪を犯し、一族を皆殺しにした上で情夫と家を略奪した妻のクリュタイメーストラーは「神に呪われた者はそうなる運命だった」というが本当にそうなのか?ただ、自分の欲を叶えるために犯した罪を正当化するために「神に呪われていたため」と言った可能性はないか。2014/08/28
梶
27
ラディカルな事象、ラディカルな記述を読みたいと思う時、それは畢竟神話に行き着くしかない。戦勝を告げる「光の飛脚」、強い感情を表すために借りる身体表現と比喩。カッサンドラーとコロスの遣り取りが印象に残る。運命の中で人はそれでもどのように言葉を紡げるか、紡ぐのかについて考えさせてくれる。2025/05/09
松本直哉
27
カッサンドラに呪われ、合唱隊に非難されるクリュタイムネストラは姦婦なのだろうか。戦争という名の無期限の単身赴任のあいだ貞淑に空閨を守るペネロペよりも、銃後を守るどころかやりたい放題の彼女の奔放をむしろ応援したくなってしまう私はおかしいのだろうか。戦争のためには娘を人身御供に捧げるのさえ辞さなかった夫の帰りを、殺意を主食としながら待ちつづけたあげく、戦利品としてしゃあしゃあと性奴隷を連れて夫が帰るのを見たとき、彼女が怒髪天を衝いたのも無理はなく、殺害の場面を読むとき、私はカタルシスの状態に連れてゆかれる。2024/03/25
こうすけ
26
ハマりはじめたギリシア悲劇。序盤はある程度筋書きがわかっていないと、読んでいて苦しかったが、終わりに近づくにつれてどんどん面白くなっていった。シェイクスピアの『トロイラスとクレシダ』でチラッと出てきて気になっていた、予言者の娘・カサンドラが活躍するのが嬉しい。実父アガメムノーンに生け贄にされたイピゲネイアの話をエウリピデスが書いているようなので次はそっちを読みたい。2020/09/24