出版社内容情報
左川ちか(1911-36)は昭和初期のモダニズムを駆け抜けた女性詩人。日本近代詩の隠された奇蹟とされた。「緑」「植物」「太陽」「海」から喚起する奔放自在なイメージ、「生」「性」「死」をめぐる意識は、清新で全く独自の詩として結実した。爽快な言葉のキーセンテンスは、読む者を捉えて離さない。初の文庫化。
内容説明
左川ちか(一九一一‐三六)は、日本のモダニズムに現れた奇跡の女性詩人。北辺の自然に対峙し、夭折の宿命に抗いながら、奔放自在な表現を生んだ。緑、昆虫、太陽、海、動物たちが喚起する驚異のイメージ、「生」「性」「死」の深淵は、読む者を圧倒し魅了する。
目次
詩篇(昆虫;朝のパン;私の写真 ほか)
補遺(墜ちる海;樹魂;花;指間の花;薫の墓;烽火;夜の散歩;花苑の戯れ;風が吹いてゐる;季節)
小文(Chamber music;魚の眼であつたならば;春・色・散歩;樹間をゆくとき)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
51
才気煥発な詩人は夭折した。そんな彼女が多く、謳うは「緑」や「昆虫」。しかし、それは(「緑」のように和歌などで詠われたような)瑞々しく、柔らかなものではない。寧ろ、夏の草いきれのようにむせかえるような生命の凶暴さと付随する死の気配を濃厚に映し出ている。そして詩情は舌先に乗せたガラス片のように怜悧だ。対比的にそれを優しく、包むは「夜の都市」。だが、安逸ではないからこその孤独が根底にある。彼女の詩を読むと、アンナ・カヴァン作品と山尾悠子作品、若しくはダリ作品がゾートロープのようにちらついてならない。2023/11/08
新田新一
10
この詩集は読むのを楽しみにしていたのですが、難解な詩が多くて、途中で挫折しそうになりました。(窓の外で空気は大声で笑った / その多彩な舌のかげで / 葉が群になって吹いてゐる)「五月のリボン」より。こんな感じの詩が多いです。作者は病弱で、24歳の時に亡くなったそうです。おそらく自分が長く生きられないことを、自覚していたのでしょう。それを考えると、一つ一つの詩に命の燃焼を感じます。表現されているものは分からなくても、言葉の強さ、イメージの鮮やかさは伝わってきます。いつかまた読み返したいです。 2023/10/02
warimachi
4
「昆虫が電流のやうな速度で繁殖した」(「昆虫」)という1行目から鳥肌が立った。こんなすごい詩人がいたのだなあ。2023/11/16
急性人間病
2
“眼鏡をはづした時のぼんやりした風景の中にも明瞭な美しさがあり、眼鏡をかけてゐる時ははつきり見えるものの中にも、ぼんやりしたよさがあるのに、誰れもが、たつた一つの鏡を覗いて、黒白をきめなければならないと考へることは愚かだ。境界線を探すことではなく、その一本の線の両側の無数の伏線を、飛躍した視野の切断面にぴしりぴしりと、あはせてゆくことにあるのではないだらうか。ただ、その視野が近いか遠いかといふことに芸術的なリズムの高い低いがきめられると思ふ。”([樹間をゆくとき]182P)2023/10/03