内容説明
五感を越える「感覚」で世界を捉え、哀感とユーモア、エロティシズムをも湛える独特の表現が今なお新しい尾崎翠(一八九六‐一九七一)。奇跡のような作品群から代表作「第七官界彷徨」と緩やかに連なる四篇、没後発見の映画脚本草稿「琉璃玉の耳輪」を収録。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
55
尾崎翠さんの作品は少女小説なのですが、男の愛おしくも理屈ばかりで情けないところを見つつ、恋愛に対しては一線をひいて女の子生活を謳歌している少女が出てきて好きです。そして電気ブラン・オールドのような味わいがあった津原泰水さんの『瑠璃玉の耳輪』の原本が読めて嬉しい限りです。公博伯爵の自分勝手だけど自分の世話も出来ない情けなさに比べてマリーこと瑛子と瑤子の蓮っ葉だけど颯爽とした振る舞いといったら男より女の方がいいと思っちゃうくらいです!素敵な明子様(男装の女性探偵)にも幸あれ!2014/08/14
Tonex
39
「第七官界彷徨」の独特の感性にぶっとんだ。これだけ読めば十分かと思ったが、他の作品にも「第七官界彷徨」の変な人たちが出てくるというので読んでみた。▼「歩行」「こおろぎ嬢」「地下室アントンの一夜」「アップルパイの午後」の四篇。どれも「第七官界彷徨」と関連しているが微妙にズレててめまいを覚える。基本的に不思議ちゃん小説だが、男性キャラも相当変。▼「琉璃玉の耳環」没後発見された映画シナリオの草稿。解説によると演じる女優をイメージしてのあてがき。個人的にはあまり面白くなかった。女優も今となっては知らない人ばかり。2016/03/21
あんこ
22
ちくま、河出に続き、岩波版尾崎翠を堪能。アップルパイの季節が到来し、尾崎翠の季節だなあとかんじる日々です。厭世的失恋者たちが繰り広げる生活を観察することが、たのしい。地下室や屋根裏など、狭いところで悶々としている彼らの愛しさ。アップルパイを午後、の兄妹のやり取りも可愛い。尾崎翠を永遠の老少女と例えたものがあるけど、まさにそのとおりだなあと感じます。語り尽くせない。2015/11/07
田氏
21
第七官にひびくような詩を書かんとする小野町子と、その兄、従兄らとの同居生活にはじまり、続く連作(のような、そうでないような)によって、心象と思索とが溶け合っていく。「心理分裂」「粉」「蘚の恋愛」などのキイワード、そして通奏する「失恋」。第七官を臨むところを目指す意識の流れが、具象とも抽象ともいいきれない刃渡りのことばで紡がれていく。『歩行』にて土田氏より贈られた詩がやけに染みたのは、私的事情――待ち人の来たらぬこと、それが恋であったのかを確かめすらできないという確信も、おそらくは大きく寄与しているのだが。2019/11/10
tamako
20
30年前に読んだ「鞄に本だけつめこんで」を思い出し、紹介されていたこの本のことも思い出したので。群ようこは林芙美子つながりでこの本に出会ったのだろうけど、本当にマニアックな選書だ。昭和一桁年代の作品だが、1970年代のコバルトシリーズに収載されていそうな瑞々しさ。50年も先取りする感性なのに寡作であったことが惜しまれる。アップルパイの午後なんてスウィートすぎて身悶えするし、瑠璃玉の耳輪の荒削りな活劇も楽しい。第七官界彷徨の奇妙なアカデミズムとほんのりしたユーモアは乙女ゲームのようだ。すごいぞ、尾崎翠。2021/09/19