出版社内容情報
「復興しないったってさせてみせらあ．日本人じゃあねえか．」焼け野原の銀座にたったひとつ灯った，トタン小屋の飲み屋のランプ――作家と実業家，二足の草鞋を生涯貫いた水上滝太郎（1887－1940）が，関東大震災後の銀座の人びとを描いて力強い『銀座復興』．他に，『九月一日』『果樹』『遺産』を収録．（解説＝坂上弘）
内容説明
「復興しないったってさせてみせらあ。日本人じゃあねえか。」焼け野原の銀座にたったひとつ灯った、トタン小屋の飲み屋のランプ―作家と実業家、二足の草鞋を生涯貫いた水上滝太郎（１８８７‐１９４０）が、関東大震災後の銀座の人びとを描いて力強い『銀座復興』。他に、『九月一日』『果樹』『遺産』を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
塩崎ツトム
9
「遺産」に書かれる住民のわだかまりや、朝鮮人虐殺や甘粕事件といった社会の暗部が表面化することは多々あるが、戦争よりも災害のマシな点は、勝者から資本的・精神的に搾取される心配がない点である。2021/07/08
スローリーダー
5
「九月一日」は関東大震災を生々しく記録している。津波が襲ってくる様子は、東日本大震災の津波の猛威を思い起こさせて胸が苦しくなった。大地震は家屋を押し潰し、人を押し潰し、心を押し潰す。「銀座復興」は被害から立ち上がろうとして小さな灯を点す人々に贈る応援歌であった(執筆と発表は時期的に遅過ぎたけど)。「遺産」は震災のスピンオフ小品。小説としての面白さはこれが一番か。2017/12/29
メイロング
5
「復興をテーマにした明るい小説を書いてください」と注文を受けたら、100点満点をとりそうな小説というイメージ。あるいは国語の教科書に載ってそうな小説というか、とかくきれいすぎる表題作。いや、おもしろんだけどさ。原民喜の「夏の花」みたいな感じだろうと思って読むと、さわやかに裏切ってくれる。むしろルポのようなタッチは「九月一日」。「遺産」が気に入ったのは、小説っぽさとルポっぽさの、いいとこどりだからかな。町内の連中のいやらしさが、まぁリアル。3.11の時もゾロゾロいただろう。2012/04/08
まどの一哉
3
滝太郎は作家であるとともに有名企業重役でもある人で、ふだんの活動領域が丸の内から銀座周辺なのか、ビジネスマンの暮らしと視点が垣間見える。とうぜんこの頃はまだ新宿・渋谷など山手線西側や中央線の発達もサブカルの隆盛もなく、経済も文化もこの界隈が中心だ。2023/05/30
壱萬弐仟縁
3
坂上弘氏による解説で、小泉信三氏は滝太郎氏の二足の草鞋をはく姿に対する、切々たる哀悼讃辞（228ページ）。正業と副業の塩梅か。悪く言えば、「見栄と、世間体と、虚飾と、欺瞞の象徴である銀座なんか、この日常時に何等の役に立たない」（63ページ）。そうかもしれないな。「大学という名前の魅力に誘われて、大したもののように想像していたところも、いたって無責任」（156ページ）。確かに今の大学よりも昔は適当だったと思うよ。「私は学校へ通う事を拒み、家庭教師から変則な教育をうけて育ちました」（197ページ）。複線人生。2013/02/08
