出版社内容情報
広島で被爆した原民喜(一九〇五‐五一)は,見たものすべてを書き尽すことのみを心に決め,激することなく静かに物語った.だからこそ「夏の花」「廃墟から」「壊滅の序曲」等の作品が伝える原爆の凄惨さと作者の悲しみを,いっそう強く深いものにしている.生前の作者自身の編集による能楽書林版を底本とした. (解説 佐々木基一)
内容説明
広島で被爆した原民喜(1905‐51)は、見たものすべてを書き尽すことのみを心に決め、激することなく静かに物語った。だからこそ「夏の花」「廃墟から」「壊滅の序曲」等の作品が伝える原爆の凄惨さと作者の悲しみを、いっそう強く深いものにしている。生前の作者自身の編集による能楽書林版(1945)を底本とした。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Y2K☮
35
表題作を含む三部作の生々しさ。原爆投下時の話は無論だが、その前後に疎開先で起きた諸々のいさかいや根拠薄弱な楽観視。それらを描く過程で著者は何を視たのか。文体は自然主義を試行していた頃の芥川龍之介のそれを彷彿させるが、彼ほどの斬新な煌めきは備わっていない。でもその淡さが結果的に記録文学としての凄みになっているのだから、創作の神はやはり存在するのかもしれない。残酷な神の配剤。適材適所。とはいえ著者は明らかに置かれた場所で咲けないタイプ。黙って耐え忍ぶ人ほど周囲から重宝されるが、確かにそれだけが能ではない、な。2019/10/09
TANGO
17
図書館本。表題を含めた短編集。淡々とした文章で、あの日の記憶がつづられている。「戦争を防ぐのは我々であり、我々の一人一人である。(杉捷夫)、「明日の人類におくる記念の作品」。戦争では、自分だけが助かる、ということはない。だからこそ、原民喜はこれを書き残してくれたのだろう。2013/08/15
ポテンヒット
16
夏に読もうと思っていた一冊。静かな筆致だが、あの日、広島にいた人でしか書けない出来事の数々。何があろうと原子爆弾は決して使用してはならないし、この惨状をもっと多くの人に知ってほしい。著者は上京しても実家でも、妻の死後は何処にも居場所がないような心許なさが切ない。唯、広島の事を書き上げるまでは死ねないと思っていたようだ。文中に松根油というものがあり調べてみたら、これで戦闘機を飛ばすつもりだったらしい。日本の戦時のお粗末さや、広島に関する文章は検閲があり出版できない事など、当時の様子を知る貴重な資料でもある。2023/08/07
ユーさん
14
被爆前後の記録。著者の日常生活からの視点で書かれているので、感覚としては庶民的。凄惨な状況は、この本に限らず、どの作品でも書かれている様に、共通。2017/12/01
nchtakayama
10
思い出すのはおばあちゃんと二人で行った原爆ドーム。夕暮れの川岸を歩いた。茶色い猫が遠く横切ったのだけど、妙に大きくて別の動物のようだった。あの川の名前はなんだっけ。ああ、綺麗だったなぁ。出掛けられるようになったら、原民喜の亡くなった場所に行ってみよう。2020/04/15