出版社内容情報
芥川は技巧を凝らした歴史小説によって名をなしたが,次第に具体的な現実に関心を移し,深い自己省察に満ちた独特の〈私〉小説的作品を書きはじめる.自伝的色彩の濃い『大導寺信輔の半生』,狂人であった生母を描く『点鬼簿』等,芥川をより人間的に身近に感じさせる作品を中心に代表作一五篇を収めた. (解説 中村真一郎)
内容説明
芥川(1892‐1927)は技巧を凝らした歴史小説によって名をなしたが、次第に具体的な現実に関心を移し、深い自己省察に満ちた独特の“私”小説的作品を書きはじめる。自伝的色彩の濃い「大導寺信輔の半生」、狂人であった生母を描く「点鬼簿」等、芥川をより人間的に身近に感じさせる作品を中心に15篇を収めた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Willie the Wildcat
52
多様な作品群。まずは『点鬼簿』。映す著者の苦悩、人生の儚さ。「陽炎の句」が象徴。次に、”家族愛”が共通項の『一塊の土』と『秋』。語るも語らぬも、心に積もる苦しみと悲しみ。お民と信子の涙は、家族故・・・と単純な解釈では忍びない。これらも印象的な作品ですね。個人的な趣味&解釈ですが、『彼第二』では明示的に師・漱石の作品をモチーフ。少なからず茶目っ気という感。所謂”保吉”ものからは、『寒さ』の”手袋の心”が意味深で印象に残る。因みに、岩波文庫から「保吉もの」という形で改めて出版しないかなぁ。(笑)2017/11/23
Y2K☮
47
後期を代表する作品たち。ビートルズになぞらえると分かり易い。デビュー当初は耳触りのいいメロディーで聴き手の心の上辺を気持ちよくくすぐったポップシンガーも、経験と苦悩を重ねれば前衛的なアレンジや重厚な歌唱力、意味深な詞などで心の奥底に響かせる歌い手になる。ビートルズも芥川も前期、中期、後期どこに本質的な魅力を見出すかは意見が分かれる(ちなみに私はどちらも中期派)。これはこれで読み応え十分だが、芥川でなくてもよいのではという気もする。そこで個性を出そうと突き詰めて「蜃気楼」や「歯車」が生まれたのなら恐ろしい。2015/11/05
ホームズ
11
今まで読んだ芥川龍之介の作品とはだいぶ雰囲気が違っていた。死の直前に書かれた作品ということでなんとなく自分の人生を振り返っているかのような作品が多く全体的に暗い感じになってしまってますね。2012/06/17
歩月るな
7
おどけた事を言うと「今、読まれるべき芥川が詰まった一冊」とでも言うのか。太宰の『人間失格』や『女生徒』に親しんだ読者ならば『大導寺信輔の半生』辺りにはそれ以上の何かを感じられる事うけあい。個人的には、『歯車』以上に「誘鬱なお話」が多いのも特徴の一つで、とにかく死人が多い。他人の死に敏感になる。ともかくも、「年代順に編集されている」ために、ついには斬罪の見物が出来なかったのを残念がる段に置いて最高潮に達する。戦争がごっこ遊びに見える、という見識もあったり。でも読書好きならやはり共感できる点も多くあると思う。2015/10/07
ピンクピンクピンク
3
お気に入りは『手巾』『秋』『お律と子らと』。前半7作が特に、自分の好みと合致していて面白かった。『手巾』は今まで呼んだ芥川作品で一番好きかもしれないです。これぞ純文学だなとおもいました。『疑惑』の八十二行省略は演出なのでしょうか…おもしろい!2016/06/28