出版社内容情報
親鸞を主人公とした本書は,発表以来,生き方に悩む数多くの若い読者の心を捉えてきた.劇作家・評論家倉田百三(1891-1943)の代表作.ロマン・ロランのフランス語版への序文を付す.改版.(解説=谷川徹三 注・年譜=鈴木範久)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
SOHSA
43
《Kindle》永く読み継がれている隠れたベストセラー。親鸞の言葉がすんなりと胸に染み入る。…世界はすべて調和している。人智で測れるようなこの世界ではない。善悪で裁いてはならない。すべて赦されている。証を求めてはならない。誓ってはならない。呪ってはならない。ただ南無阿弥陀仏の六文字を唱え祈るのみ。…容易ではないだけに深い。2015/01/24
Willie the Wildcat
41
業への赦し。師を頂点とした唯円と善鸞の対比。「社会意思」は頭で理解するも、心の不合理や不整合への解を問い続ける。己の信じる何か、心の拠り所を問い続ける。世代を超えた”軸”探求の旅の一環。最期の局面での善鸞。虚偽の有無のみが、判断や評価の基準であるべきではない。人間性や個性を失うことなく、心の有り方を自分なりに見つけたいものだ・・・。(正論のみではなく)矛盾を楽しむのも人生かな。2014/09/12
gtn
40
本来悪人である人間を、仏は悪いまま救済してくれる。それが、仏の愛だと親鸞に語らせている。これが他力本願の思想だとすれば、キリスト教との親和性が高い。著者の信仰のベースには念仏があると想像するが、その師を大胆に脚色したり、他宗のニュアンスを織り混ぜたりしたのは、宗教的潔癖よりも作家としての創作欲が優ったからか。さておき、私は人間とは善悪兼ね備えた存在と思っているので、著者の思想には与しない。2020/05/20
荒野の狼
37
「出家とその弟子」は倉田百三が26歳の時に執筆p295, 310した親鸞を主人公とした戯曲で1日ほどで通読できる長さ。岩波文庫版は、ロマン・ロランのフランス語版序文があるため購入。ロランの序文は結末まで書かれているので、戯曲を読んだ後に読むのが適当。ここでロランは、倉田自身が戯曲において書ききれていない深い意味を読み取っており、戯曲を補完するものとなっている。戯曲本文より優れているといってもよい。2023/06/18
藤月はな(灯れ松明の火)
37
誠実に生きたくても生きてゆけない世の冷たさと貧しき者に対し、お題目を唱えるだけで何もしない宗教家や金持ちがいるという不条理に絶望していた日野左衛門の気持ちや虚無を知ってしまったからこそ、放蕩を行う善鸞の罪悪感が良く、わかる。しかし、キェルケゴールの「人は絶望を知るからこそ、幸福を知ることができる」という論と同じ論が親鸞の言葉にはある。浄土真宗の他力本願とは、絶望しても全てを許した上で人が浄土へ至ることを祈ること。個人的には親鸞が「自分も貶めるから汚い言葉は使ってはいけない」という所にハッと来ました。2015/01/22