出版社内容情報
「大石良雄」は弥生子41歳の作.この小説における大石良雄は世の定説となっている英雄ではない.いかにも人間らしい, 屈折した家庭人大石良雄である.「笛」は79歳の作.夫の死後,身を粉にして働いて育てた子供が自分から離れていく-老いた母親の孤独を繊細な筆遣いで描いて,しみじみと読者の胸を打つ.(解説=加賀乙彦)
内容説明
「大石良雄」は弥生子41歳の作。この小説における大石良雄は世の定説となっている英雄ではない。いかにも人間らしい、屈折した家庭人大石良雄である。「笛」は79歳の作。夫の死後、身を粉にして働いて育てた子供が自分から離れていく―老いた母親の孤独を繊細な筆遣いで描いて、しみじみと読者の胸を打つ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
124
作者の小説は初めて読んだが、非常に良かった。文章もプロットも落ち着いていて、成熟した大人の物語と言う趣がある。特に対象をきちんと掘り下げていく文体が私の好みで、小説の文章はこうでなければと思った。「大石良雄」は忠臣蔵で有名な大石内蔵助が主人公。内省的で仇討について、思い悩むところが武士というよりは現代の知識人のような感じだった。「笛」は作者が79歳の時の小説で、瑞々しい文体に驚いた。戦争を生き抜き、苦労して子供を育て上げた主人公の寂しさが胸に迫る。これほど素晴らしい作家が現在は読まれていないのが残念だ。2015/09/03
Ayumi Katayama
16
大石良雄。おおいしよしとも。それとも、大石内蔵助の方が通りがよいだろうか。元禄十五年。浅野内匠頭長矩が殿中にて吉良上野介義央に刃傷に及んだあの事件から十一ヶ月後、内蔵助は京都山科に移っていた。山科での内蔵助はどのような様子であったか。何を望んでいたか。ここには、英雄などとは遥かに遠い一人の男の姿がある。解説には女性的な視点とあるが、それには星野日子四郎氏が語った赤穂義士があったのだそうだ。でき得ればそちらにも触れてみたいものである。二作目の『笛』。まさか、そのような終わりかたをするなんて。2019/04/06
寝落ち6段
15
忠臣蔵の大石内蔵助を主人公にした『大石良雄』。赤穂藩が取り潰され、家庭に戻った内蔵助は、穏やかな家庭と吉良邸討ち入りの間で揺れる。戦後、未亡人たった一人で子育てをしてきた老婆を描く『笛』。厳しい時代を藻掻き、ついに手に入れた家庭だが、夫の死、巣立つ子供たちによって憧れの家庭が崩れていく。核家族化、孤独死、多忙化、少子化、高齢化、貧困化、同性婚など家庭を取り巻く状況は変わってきている。一体理想の「家庭」とは、そもそも「家庭」とはどのようなものなか。今一度、自分の家庭とは何なのか、省みる時代なのかもしれない。2021/09/28
やま
10
電車に乗るのに家にあった本を取ってみた。家にあったということは一度読んでいるはずなのに、どうも忘却している。◇大石良雄(よしたか)は大石内蔵之助のこと。山科にこもっていたころの話である。どうも、ドラマや歌舞伎での世界が邪魔をして、あるイメージが付きまとうが、ここに出てくる内蔵之助は実に人間的な弱い人だ。その心理描写が面白い◇笛という小説は戦後のある一家の話。フルートを吹いていた夫を亡くした人とその家族について淡々と書かれ、淡々と終わる。でもその死は衝撃的。野上弥栄子の意図は何か?あまりに寂しい。2021/03/27
1.3manen
10
父が松之丞に対して説得の調子でこう言った。「人間は一人一人の顔が変わっているように、ものの考え方や行いも一様には行かないし、また同じ様にしたくもめいめいの事情で許されない場合もある」(87頁)。分かり合えないのかもしれないが、それは個性と多様性だから社会はそういう構成になっているのだ。『笛』はその当事者にならないと、なかなか感情移入はできなかった。2013/10/03
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