出版社内容情報
近年加速する大学の「ガバナンス改革」。学長を中心としたトップダウン型経営は、教育現場に果てしない混乱をもたらしている。教育・研究の実態からかけ離れた独善的な改革が推し進められ、果ては学内制度や人事までが一部の人間の意のままに改められてしまう--。変わりゆく国公立大学のいまを、七つの大学の現場から報告する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
109
昨年、母校の総長選考に少し関わることがあり、従来とは様変わりした選考プロセスに驚愕した。小泉改革によって、国立大学に経営重視の観点が持ち込まれ、学長や部局長の選考から学内自治が排除された結果、「私物化」と受け取られかねない学長独裁を招いている現状が紹介される。大学には「大学の自治」「学問・研究の自由」が何より大切だという考えは古いんだろうか。大学には、経営重視の「企業体」というより、社会の「コモンズ」であってほしいと願う自分の考えは間違っているのだろうか。知れば知るほど、暗澹たる気持ちにさせられる。2021/11/04
Yappy!
10
岩波ブックレットってこんなチャレンジングなというか過激な内容のものも取り扱うんだというちょっとした驚き。 全国ニュースになった北海道大学や旭川医科大学は少しは見聞きしたけれど、ある程度まとまった経緯を読むのは初めて。地区が遠いと全然情報が流れないことを実感したのは、大分大学や福岡教育大学、下関市立大学の惨状。京大や東大はいろいろあるのでどちらかというと地方国公立の悲惨な現状は想定以上というか、あそこだけじゃなくてそちらもかという感想。ある程度の規模がない大学の経営は多分大小関わらずダークサイドに入っている2021/09/27
寿児郎
8
数々の国公立大学が、新自由主義的な改革によってその民主制が骨抜きにされズタズタに蹂躙されている実態を知った。 学長選考は恣意的なものにされ、明らかにおかしいのにその声が届かない、是正する術もなく改悪されてゆく経過を見ていることしかできない絶望的な無力感を感じた。 大学というものは偏差値や特色など受験に直接的に関わる部分だけ注目されるが、このようなガバナンスは人々の目に触れにくいので、非常に意義深い書籍である。 今もまだ大学の崩壊は現在進行形で続いているので、注視していきたい。2023/12/09
ひつまぶし
6
これまでの決まり事を何の根拠もなく無視して、勝手なことを始めたやつがいるということ。背景には日本学術会議の任命拒否や軍事研究推進もある。大阪の「橋下改革」は密室化できないところを劇場化し、民主的な手続きを踏んでいる演出でごまかした。国公立大学では密室で決めたことを平気でゴリ押しできているというだけ。おかしなことに反対するコストは膨大だし、組織としての大学の体制もズタズタに改革されれば、研究力が落ちるのは当たり前だろう。改革者ぶったやつらが一番損失をもたらしている。これがおそらく社会全体に広がっている。2022/11/11
よきし
6
日本の大学が相当ヤバイと思っていたが、改めてマジでヤバイということを突きつけられたブックレットであった。国公立大学でこれだから私立はもっとヤバいところもいくらでもあるのだろう。高等教育というものが本当に崩壊して「私物化」されているというのはまさに新自由主義の恐ろしいところで、これにどう立ち向かうのか、頭が痛い。別の場を作りつつ、大学は大学で闘うほかない。民主主義があらゆるところで崩壊している。そしてそれを問題にすら感じないことの恐怖よ。2021/11/01