出版社内容情報
戦場の最前線で、銃後の日常で、帰還兵たちは自身の生の極限に直面する。二〇一四年全米図書賞受賞作。
内容説明
戦闘地域の真っ只中だけではない。銃後の日常でも、帰還兵たちは自身の生の極限に直面する。彼らに慰めや癒しを与える、幸福な物語や簡単な答えなど、どこにも存在しない。蛮行と信仰、罪と恐怖、不安、無力感―生々しい戦場の現実から浮かび上がる戦争の無意味さ、愚かさ、人間の悲しみが読む者の心を打つ。自身も海兵隊員として戦場の最前線に臨んでいた著者の体験を反映した本作は、二〇一四年、アメリカでも最も権威あるナショナル・ブック・アワード(全米図書賞)を受賞した。
著者等紹介
クレイ,フィル[クレイ,フィル] [Klay,Phil]
ダートマス大学を卒業し、2005年、米海兵隊に入隊。広報担当として2007年1月から2008年2月までイラクのアンバール県で勤務。除隊後、ハンター大学の創作科にて修士号を取得。デビュー作である『一時帰還』が2014年全米図書賞を受賞
上岡伸雄[カミオカノブオ]
学習院大学文学部英語英米文化学科教授。現代アメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころりんぱ
56
米海兵隊員がイラク戦争で何をして来たか、何を思ったか、戦争に行くってどんな感じなのか、怖いぐらいリアルでした。小説なのに証言集のような錯覚を覚えるほどです。思わず動画を検索して、あ、これは観られないな、となってやめたり、実際の帰還兵が反戦のスピーチをしているのを観て、いろんな事が本当なんだ…とショックを受けたり。70年前の戦争とは違う、現代の戦争ってものを嫌でも知る事ができます。戦争を知らない日本人が今読むべき本かなと思います。戦争って事を考えた時に思いもよらなかった立場や視点を読めて良かったです。2015/09/02
おさむ
47
イラク派遣の経験がある元海兵隊員が描く戦争小説。感傷的ではなく、地に足のついたハードボイルド。戦争国家アメリカの一断面がここにあります。読者の胸に突き刺さってくる研ぎ澄まされたリアリティ。映画「ハートロッカー」や「ブラックホークダウン」、ノンフィクション「帰還兵はなぜ自殺するのか」に通じる重みと深さですね。2014年の全米図書賞も納得。こうした骨太の小説をきちんと評価するところに、まだ米国の良心が残っていると感じます。2017/08/20
くさてる
19
イラク戦争に派遣された人々、兵士たち、従軍牧師、帰還兵、復興事業に携わる公務員などを主人公にした短編集。専門用語も多く使われていて、ニュアンスが掴みづらいところもあったけれど、それを越えて圧倒的に伝わってくるものがあった。戦場の恐怖と無感情さ、戦地と平和な母国との落差、戦場で消耗していく感情をもて余して、家族や恋人とも距離が出来ていく兵士たちの孤独。反戦とか厭戦という問題ではなく、剥き身のまま、極限の状況を体験した人々の葛藤が伝わってくるような内容だった。読み応え有ります。2015/08/29
白玉あずき
18
「人権」を掲げる国の戦争って、いったいどんなジョークなんだ。「兵器体系としての金」笑うに笑えない、しかし超のつく阿呆な現実。無理に壊した社会システムをお好みに構築しようなんて、その能天気さ傲慢さ。その直後の「アザルヤの祈り」。「戦争」の持つ絶望的な多面性を、これでもかと見せつけてくれる。「この世で神が約束するのは、私たちが一人ぼっちで苦しむわけではないということだけです。」 勇敢さとか愛国心とか英雄だとか、地獄を体験していない人間には何も語って欲しくないだろうな。2015/10/24
かもめ通信
18
イラク戦争の帰還兵だという著者が描くのは、自身の経験に基づいたノンフィクションではなく、いずれもイラク戦争をモチーフにした12篇の短編小説のはずなのだが、そのリアリティに圧倒されずにはいられない。 戦争を賛美するものではなく、声高に反戦を訴えるものでもない。だが、読みながらいろいろなことを考えさせられる物語たちだった。2014年、アメリカナショナル・ブック・アワード(全米図書賞)を受賞作。2015/09/13