岩波セミナーブックス<br> 『ボヴァリー夫人』を読む―恋愛・金銭・デモクラシー

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『ボヴァリー夫人』を読む―恋愛・金銭・デモクラシー

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  • サイズ B6判/ページ数 247p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784000280532
  • NDC分類 953
  • Cコード C0397

内容説明

凡庸な夫への失望と道ならぬ恋の煌めき。襲いかかる策謀と絶望のうちの自死。ギュスターヴ・フローベール(一八二一‐八〇年)の労作『ボヴァリー夫人』(一八五七年)は、新しい時代における個人生活の悲喜劇を冷徹な筆致で描いた「近代写実主義の傑作」と評されてきた。だが、残された厖大な草稿は、はてしなき「書く」営みの渦中で作家が言葉に定着させようとしたものの正体を記録している。民主主義と資本主義に司られた近代国家と、そこに生きる人々の「世論」が形成する磁場。『ボヴァリー夫人』が描く人物の彷徨は、個人をはるかに超えたその磁場に今も生きるわれわれ自身の姿にほかならない―幾多の草稿と取り組んできた生成研究の第一人者による精緻にして斬新な「読む」営みのただなかに、未知の作品像が立ち上がる。

目次

第1章 『ボヴァリー夫人』の誕生
第2章 恋愛の政治学―「自由」と「平等」をめぐる民主主義的情念
第3章 ベルトーの挿話―結婚・世論・金銭
第4章 エロイーズの死からルルーの策謀へ
第5章 オメとは何者か―名誉欲の行方と「世論」の支配
第6章 イロニーの力

著者等紹介

松沢和宏[マツザワカズヒロ]
1953年、東京都生まれ。1988年、パリ第8大学フランス文学科博士課程修了(文学博士)。現在、名古屋大学大学院文学研究科教授。フランス国立科学研究センター近代テクスト草稿研究所フローベール班日本側通信員。主な著作に、『ギュスターヴ・フローベール『感情教育』草稿の生成批評研究序説』(フランス語著作)(フランス図書、1992年)(渋沢・クローデル賞本賞)、『生成論の探究―テクスト・草稿・エクリチュール』(名古屋大学出版会、2003年)(宮沢賢治賞奨励賞)ほか
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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ラウリスタ~

10
ボヴァリー夫人読解のための入門として最適の一冊だろう。フロベール研究では、ある箇所の解釈をするときに、その都度草稿をチェックして異同を確認することが、近年では常識だそうだが、本書でもいくつか文章を引用しつつ、どのように行動の理由を示す箇所が「削除」されていき、それによって細部に新たな意味が付与されているのか、実践的に教えてくれる。ルオー爺さん(エンマの父)とオメの類似性など、さほど気にしたことない脇役の面白さ、資本主義小説としての読解など、『ボヴァリー夫人』を姦通小説という通念から解き放っていく。2022/07/12

白義

8
まさにプロの仕事だと感嘆の溜め息が出る一冊。緻密で実証的な草稿研究からボヴァリー夫人の生成過程を探求し、恋愛小説から、金銭やデモクラシーなどの問題系も備えたテクストとなったという観点から、ストーリー全体を事細かく分析している。フローベール自身はボヴァリー夫人で描かれる、平等と虚栄の欲望に満ちた近代をとことん嫌っていた。嫌っていたし、自分がその近代に内属していることを痛感していたからからこそ、どこまでも正確にそのアイロニーに満ちたアポリアを見抜き、描くことが出来たのだろうか2012/10/13

tieckP(ティークP)

6
良い本。ただ草稿との比較は牽強付会になりがちで、本文との差異について、「草稿にはこうあったのだから意図があったのだ」と語ることも「草稿からわざわざ消したのだからこの意図は積極的に否定される」と語ることもできるから、研究者が読みたい結論を導きやすい。また本書は時おり精読した上での読み替えを提示しているが、それを作者の意図と見ているのはフローベールを神のごとく信頼しすぎで、むしろテクストが作者の手を離れていると思える箇所もあった。でも仮説として面白いし、最後にイロニーで締めくくったのは本書の核心を突いている。2018/03/10

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