出版社内容情報
エーコの知られざる赤裸々な文体と姿態が晒される衝撃の超・小説。「あなたお名前は?」記憶喪失から自分を取り戻すことはできるのか。物議を呼ぶ自伝的物語展開は、幾通りにも読み解きを促す謎と神秘に満ち溢れる。(上下巻の下)
内容説明
記憶は人間にとって最高の解決策というべきもので、時間は人間に対して流れ、流れた時間が過去になる。ぼくははじまりというものの驚異を堪能した―。記憶喪失のヤンボにあらゆる断片がまとわりつく…霧、霧、霧、コーヒー、あのメロディ、本、そして麗しのシビッラ!霧に隠されてしまった「流れた時間」を奪取すべく、彼は子ども時代を過ごした田舎の家の屋根裏に潜入する。驚嘆すべき女王ロアーナとの邂逅、ヤンボは帰還できるのか?
著者等紹介
エーコ,ウンベルト[エーコ,ウンベルト] [Eco,Umberto]
1932年、北イタリアのアレッサンドリアに生まれる。記号論や中世美学などにおける世界的知識人。評論・創作に幅広く活躍したほか、1980年に初めての小説『薔薇の名前』を発表、世界的ベストセラーになる。2016年死去
和田忠彦[ワダタダヒコ]
1952年生まれ。東京外国語大学名誉教授。専攻はイタリア近現代文学、文化芸術論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
289
★★☆☆☆ 下巻で「女王ロアーナ」が、子供の頃見た漫画のキャラで、彼女に性的興奮を覚えたことが明かされる。 しかし、ヤンボは他にも多くのキャラ及び人物に性的興奮を覚えてるので、女王ロアーナの存在感は薄いままであった。 イタリア人であれば、懐古的な意味でも大衆文化史的な意味でも大いに楽しめると思うが、日本人にはピンとこない部分が多い。だけどコサック兵を連れて霧の山を脱出するシーンは、まるで『スタンドバイミー』のような1人の少年の成長譚として楽しめた。2022/08/17
ケイ
123
どういう風に読もうとも読者しだい。読み込もうとする程に、エーコはダ・ヴィンチ的人物であったと納得するだけ。要するに天才で、様々なことに知識を有し、何でも軽々と習得し、得た知識の遥か高みから全体を見渡せたのだと。そんな人物が子供の頃に読んで胸ときめかせたヒーローや美女、聖人たちが、彼を迎えに来てくれる。暗闇の中、上に続く階段。その果てだけで輝く光から彼らは現れ、おりてくる。歳をとるとは、様々なことの忘却、もしくは動けなくなること。動けず、言葉も発せられなければ、眠りゆく脳は、何をみるのか…。2018/04/01
starbro
120
上下巻、560P超、完読しました。主人公(著者)を成長・構成した様々な事象・芸術・人物等、カオス的に溢れていました。著者の他作品よりもユーモアを感じました。意外とアメリカ文化の影響も受けていて、著者の今迄のイメージと異なりました。イタリア人でないと解らない完感性もあるかも知れません。著者の新作を読むことは、もうないかと思うと大変残念です。2018/03/28
ヘラジカ
33
中盤と後半でガラッとトーンが変わるが、序盤は上巻から引き続き主人公の読書遍歴(もとい娯楽遍歴?)から記憶を辿っている。実際の写真や絵がカラーで挿入されているので、訳者後書きの言う通りエーコを形成している文化を巡る書として読むと面白い。続く中盤、少年時代のパルチザンに関する記憶は物語性を十分に帯びているので、こちらも優れた戦争小説として楽しめた。しかし後半の思い出と知識、恋情が混淆して炸裂する辺りは難解さを極めている。これをどう読めば良いのかは全く分からない。機会があったら解説書を当たりたいと思う。再読必至2018/01/24
MATHILDA&LEON
32
雑誌、音楽、新聞などから、自分の記憶を蘇らせようと奮闘する主人公。再度の卒倒により、心にかかっていた霧の中の記憶が徐々にハッキリと戻ってくる。霧にこだわる意味、女性遍歴の理由、それが分かった時、全てが氷解する、のだが。終わり方がこの上なく独特で、尻切れとんぼのよう。しかしながら、私はこの物語が好きだ。美しくもないし、悲しいことばかりだが、それが真理のように思えたから。2018/08/24