出版社内容情報
生きることが、他のなにものかに集約されることであってはならない―。全体調和の歴史を打破するための支えはどこにあるのか。「9・11以後」論を超えて、人間古来の視座の回復をめざし、倫理への探究をこころみた評論集。
内容説明
生きることが、他のなにものかに集約されることであってはならない―。全体調和の歴史を打破するための支えはどこにあるのか。権力者の歴史的時空を切り裂いて溢れだそうとする未発の世界の尖端で、時は、身体は、そして記憶はいかなる像を結ぼうとしているのだろうか。ソロー、ヴェイユ、ベンヤミン、ソンタグ、アレーナスら、生と死への誠実さを貫徹するために闘った人々の姿と思想を照らしつつ、「九・一一以後」論を超えて、人間古来の視座―ミニマ・グラシア“最小限の恩寵”―の回復をめざし、新たな歴史的倫理への探究をこころみる評論集。
目次
“良き眺め”を探して
衛星的暴力の彼方―メディアと世界同時性
時の瓦礫の島
皮膚の歴史―シャドウ・アーカイヴとしての映像
廃墟とアメリカ
待機する灰
戦争とイーリアス―ソローからヴェイユへ
眼と眼のはざまに砂漠が―アブ・グレイブを目撃しないこと
蝶と樹々の回帰線
月に近い町で―繭のなかのベンヤミン
ミニマ・グラシア―銅の李舜臣、琥珀の金芝河
著者等紹介
今福龍太[イマフクリュウタ]
1955年東京生まれ。文化人類学者・批評家。東京外国語大学教授。2002年より遊動型の野外学舎「奄美自由大学」主宰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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三柴ゆよし
7
良書。ひさしぶりに読んだが、今福はもっと読みたい。2018/11/12
林克也
1
この作者の言うことは殆んど同意できる。こういう哲学・思想を持ち、世の中に発信することは必要だが、世の中は個々人、組織、あえて国家、の利益の奪い合いで成り立っている以上、そこをどうするかであり、かといって単純に共産主義(これも正しく理想的に維持していくのは怪しいが)がいいというのでもないし。2009/11/17
小泉
0
「戦争を造りだす世界そのものが日々生産する罪の発芽を、自らの日常に探り当てることができるあたりまえの感性の持ち主であれば、現代においていかなる『私』もイノセントではありえない。……世界が戦争を通じてあらゆる国家と人々の上に堆積させてきた『罪』そのものを背負うように戦乱のイラクの街路を徘徊する象徴的な異邦人であると想像することはできないだろうか?……こうした人間を戦場はかならず引き寄せる、と。」 殺された青年だけでなく、テロリストになった青年をも含む深い考察だろう。2020/07/12