内容説明
左翼運動に身を投じて転向した良家の息子菅野省三を主人公に、出身の異なる友人たちを配して、日本ファシズムの時代を苦渋にみちて生きた青年像を描きつつ、時代を動かした支配層の生活と思想をも作者の筆は精緻にとらえる。昭和10年から敗戦直前までの社会を重層的に描くことに成功した骨太い大長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Ribes triste
6
若者たちは、思うままにならない自分の生き方に矛盾を感じながらも、抗う事も出来ず、迷路の中を歩み続ける。やがて戦争の影は静かに押し寄せ、否応なく彼らの人生を呑みこんでいく。無常でもあり、残酷でもある。2015/12/20
しびぞう
4
途中、登場人物のセリフの透明感にはっとさせられる。二十世紀半ばに書かれた小説独特の空気感と言っていいのだろうか。2016/11/15
caizim
2
共産主義がこんなにも若者をひきつける夢だったとは、今では信じられない。その夢に敗れた主人公も、うまく立ち回る政治家や事業家も、仙人のように自分の世界だけに生きる人も、みな徐々にファシズムに飲み込まれていく、じわじわ感が怖い。2009/01/25