出版社内容情報
漱石は留学先のロンドンで本場の世紀末思潮に深く影響を受けた.漱石文学と世紀末美学との関わりに光をあて,気鋭の論者が周到な調査に大胆な推論を重ねて描き出した刺激的な漱石像! 漱石愛読者・研究者必読の傑作.
内容説明
留学先のロンドンで本場の世紀末思潮に触れ、深い影響を受けた漱石。気鋭の論者が従来の漱石理解に挑むべく、生の深奥に迫る漱石の文学世界を、絵画を中心とした世紀末美学との関わりで鮮やかに浮び上がらせる。周到な調査と作品の綿密な読込みに大胆な推論を重ねて描き出した、刺激的な漱石像。漱石愛読者・研究者必読の傑作。
目次
序説 「世紀末」について
第1章 近代日本文学と「世紀末」
第2章 漱石文学における「世紀末」
第3章 世紀末芸術と美的体験
第4章 ラファエル前派的想像力―ヒロインの図像学
第5章 世紀末的感受性―水底幻想
第6章 浪漫的魂の行方―『薤露行』から『草枕』へ
第7章 絵画と想像力―『夢十夜』の場合
補論 住まいの風景―『門』における空間の象徴的描法
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
猫丸
11
19世紀末西欧の精神はデカダンスに彩られていた。漱石は倫敦において同時代評論や社会、心理学系の書を渉猟、時代の空気を直接体感する。美術館巡りは、後年の作品に影響を与えたようだ。とくに好んだラファエル前派の作品に現れた妖艶な女性のイメージは、那美さんを生み、藤尾を形成したかもしれない。彼女らは「薤露行」「一夜」「幻影の盾」に代表されるロマンチシズムの延長上にある。にもかかわらず一方で写生文を称揚し、その美質を「逼(せま)ってをらん」所に見るなど、漱石多面体の放つ光は変幻自在の色彩なんである。2022/04/05
ルートビッチ先輩
2
明治30年代から盛んに行われた日本への世紀末芸術紹介・移入では、自然主義=デカダン=世紀末という図式が作られた。このような状況で作家として出発し、いや、それ以前に世紀末文化の中心地ロンドンへ留学していた夏目漱石という作家を世紀末という時代に置いてみるという試み(もとになった博士論文ではより広範に扱っていたらしい)。それによって、漱石文学における髪、水、鏡といったモチーフ、そしてそれらと密接に関わる女、「宿命の女」を見出しながら、作品の解釈を試みている。漱石の書込調査の詳しさ、世紀末芸術理解の深さが魅力。2014/12/06