内容説明
「天皇小説」こそは最後の文学である。「何ものかを問題にするさいの鉄則は、その対象を具体的に描くことにある」。この鉄則から見たとき、「天皇」は近現代小説において、その近傍からいかに描写されてきたのか、あるいはこなかったのか。かつて「差別」を主題化した著者が最後の物語形成磁場に挑む渾身の天皇小説論。
目次
序文 明治15年=昭和35年
第1章 不敬罪と小説
第2章 大逆事件と小説
第3章 民本主義とプロレタリア文学
第4章 戦後天皇小説の群れ
第5章 現代文学のなかの天皇
終章 黙説法の政治学
感想・レビュー
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ハイザワ
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内容以上に描写こそが政治性を持ちうる。問題の中心に接近しながらもそれを回避するという黙説法的態度は、天皇に限らずいたるところに転がっていて(労働者問題もここに関連しているのではと思う)、おおっぴらに語ることが良いという訳ではないが、語らない、という態度に関してもっと批判的であったほうがいいのだろうかと感じた。2016/01/23
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「天皇・皇族の姿を、まさに作中人物として描いた」「天皇小説」に焦点を当てた大胆かつスリリングな批評。白眉は、漱石の『こころ』を大逆「事件の閃光に貫かれつつこれに抵抗した作品」と喝破した第二章「大逆事件と小説」。日本語で何かを読み、書こうと思うなら、読んでおいて損はないだろう。2015/04/28
じめる
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日本という国で小説を読む/書くということは如何なることか。天皇という存在は近代以降多少の変動はあったもののそれはやはり触れてはならない崇高なる存在として厳然と存在し、まさにバルトのいう通り皇居に代表される日本の「空白の中心」としてあった。小説というものが、物語が、その根本的な性質から激化を要請するならば、最上位であるはずの天皇は避けては通れないはずだった。日本という国において、最も意識せざるをえない存在に対して人々はどのように避けることを試み、そして記述してきたのか。天皇への接近の仕方。2014/02/09