8月最後の読書は、「どこまでも柔らかな暗闇」に包まれて終わった。上巻の巻頭に引用されたコールリッジの詩にのまれた格好だ。 救いは、後半になってどこからともなく表れた孤独な高校生が身に着けていた衣服から目に入る黄色。ビートルズが歌ったYellow Submarineの絵がついたヨットパーカである. 影のない世界を否定するかのような鮮やかな太陽を連想させる色だ。 しかしながら、少年は、信号の黄色で止まることを躊躇せずに、海面の上と下を行き来できる船に乗り込んだ。意識と無意識をまたぐ潜在意識(subconscious)の中を進むイメージ。本文での言及はないが、有名な歌詞の一節にはWe all live in a yellow submarine とあることを考えると、彼もこの潜水艦の閉鎖空間に住むことを望んでいたのだ。 壁に囲まれた街の謎は解けないままに結末を迎えたが、著者が紡いだこの夢物語の続きは、読者ひとりひとりが考えればよい。それが、「あとがき」に書かれた「移行」になるのだろう。 因みに、「黄色の潜水艦」には定冠詞がないのでどこにでも存在することを暗示している。