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和書妖花燦爛赤江瀑アラベスク〈３〉創元推理文庫

定義はともかく、「路地」の雰囲気が好き…

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定義はともかく、「路地」の雰囲気が好きだ。散歩に出かけると、家と家の間の狭い通路へ足が向かう。時間にかかわらず、何かが潜んでいる、そんな気配に惹かれるのである。
　「春の寵児」という作品は、この路地の描写から始まる。「入り組んだ通路や抜け道が折れたり、曲がったりして、つながりあっているその路地は、…」諸田玲子が朱川湊人の『かたみ歌』（新潮文庫）の「解説」で子ども時代を回顧した「ふしぎが入り込む場所」そのものである。
　赤江瀑は、この失われゆく空間を、鮮やかに蘇らせたのだ。幾何学的な区画整理ではない。「たけなわな花盛り」が、人気のない路地に艶やかさを醸し出したのだ。
　アラベスクな三冊目の主題は、副題の「妖花燦爛」のとおり、花々や樹木である。庭であったり、寺の境内であったり、あるいは山深い谷で、それぞれの物語の登場人物の視線や記憶をとおし、彩を添える。あくまでも、風景や思い出の一部で、圧倒感はない。
　しかしながら、その美しさに秘められた気配は残酷である。花は「死を隠蔽する」（『表象の芸術工学』高山宏、工作舎）し、花には「死相の美学」（『ルナティクス』松岡正剛、作品社）がつきまとうからだ。
　この編集によって招聘された咲き誇る作品編集を読むと、赤江瀑は『さかしま』（ユイスマンス、光風社出版）の主人公のように「昔から花々を溺愛していた」のだと感じられた。これこそ、まさにデカダンス。巻末の解説で「耽美」の作品集と謳われているのがよく分かる。
　街中の路地に出口はあるが、赤江が描く狭い通路は、その先が見えないばかりか、もとへ戻る道筋も消えてしまう危い空間である。そこへ入り込むと「あべこべに植物に鑑賞され」（『魔法の眼鏡』棚村季弘、河出書房新社）、もてあそばれてしまうようになるのかもしれない。

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