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和書萩原朔太郎詩集新潮文庫（改版）

萩原朔太郎の詩を読むのは高校の国語の授…

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萩原朔太郎の詩を読むのは高校の国語の授業以来だと思う。今になって詩集を手に取ったのは、先日、「猫町」の短編や散文を堪能したからだ。
　自然の移ろいを素材にした象徴的な詩も印象的だったが、私が最も惹かれたのは「地下鉄道にて」である。まず、ルビの「さぶうぇい」を見て心が和んだ。
　著者は駅の歩廊（ほうむ）で佇んでいる。肝心の列車は視界から消えていて、後尾燈だけが心象として語られている。
　解説で、川上徹太郎（本書の編者）は、萩原朔太郎は「都会派詩人であった」と書いている。「地下鉄道にて」は、わずか８行の構成ながら、発展する東京という街に隠れた哀愁を伝える作品だと感じた。
　1929年に前橋から単身で東京に戻った際に、赤坂に住んだという作者の経歴を考えれば、この作品は、1927年に営業を開始した国内で初めての地下鉄「銀座線」を題材にしたことに間違いないだろう。駅は「赤坂見附」と推測する。詩中に漂う孤独感は、自分自身の離婚が背景にあるように感じれた。
　同じ「赤坂見附」を、幻想小説家の中井英夫が、「丸の内線」の開通を戦後復興の記憶として、「感慨深い駅」（『香りの時間』大和書房）と思い出していたのとは異なり、萩原朔太郎は、当時の暗く寂しい心情を綴ったのである。
　私は、「空洞（うつろ）に暗きトンネル」のイメージを懐かしく感じたのである。ゆっくりと声に出して読みなおすと、作者の傍らで、行ってしまった地下鉄を、戻ってくるはずもない列車を、むなしく見つめている自分がいることに気づく。浅田次郎の小説（『地下鉄に乗って』）とは異なり、この詩では、乗車しないことで過去へ意識を移動させられるのだ。学生時代の淡い思い出がよみがえる。
　穴を突き進む鉄の塊から、抑圧された欲望を、フロイト的に精神分析することも可能かもしれない。しかし、ここでは余計な詮索はしないことにする。単純に、詩編の音と、それから思い浮かぶ心中の像を懐かしめばいい。それが、「詩」の魅力なのだから。

タグ詩、都会派、地下鉄

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