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和書ジャンヌ・ダルク - 超異端の聖女講談社学術文庫

ジャンヌ・ダルクを実在した人間として最…

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ジャンヌ・ダルクを実在した人間として最初に意識したのは、映画『カサブランカ』の女優イングリッド・バーグマンの自伝、My　Storyの中で、自分が演じたジャンヌ・ダルクへの思いをつづった件を読んだ時だった。（1982年8月）映画は見ていないが、自伝に収録されていた写真を見て「聖人」としての印象が心に刻み込まれた。
　この聖女を「魔女」に変身させたのがユイスマンスの『彼方』（1993年４月）。この小説では、悪名高い猟奇殺人者ジル・ド・レとの関係で言及されている。澁澤龍彦にいたっては、「ジャンヌ・ダルク」は乳房の間にマンドラゴラの根をかくしていたと書いている。（少女と奇蹟）火刑に値する人物に豹変してしまったのだ。
　そして、世界史上重要な100の出来事を時系列でまとめたTime社のHistory’s　Greatest　Eventsでは、フランスを救った「偉人」として書かれており(2012年２月)、意識の中で印象、想像、史実がせめぎ合うことになってしまった。
　この『ジャンヌ・ダルク』は、今までのこれら三つの異なるイメージの混乱を整理してくれた。「溜飲が下がる」とはこんな体験だろう。改めて、このオルレアンの少女が、今でも多くのフランス人に慕われ、尊敬されている理由がよく理解できた。
　本書は「大陸に住んでいなけれれば見えてこない風景」という文章で始まる。パリ在住の著者は、ジャンヌ・ダルクが天の声を聞き、軍を率いて疾走したヨーロッパの地に立ち、フランス人の視点で、この神秘的な女性の覚醒、献身、偉業、そして死を記述している。歴史的な背景に加え、当時の宗教的意識や庶民の生活観なども盛り込まれ、頁数以上の深遠な内容になっている。
　ジル・ド・レとジャンヌ・ダルクの事実としての関係についても説明があり、改めてユイスマンスの『彼方』は小説であることが確認できた。
　女性の社会進出の重要性が叫ばれる今、この聖なる少女の姿を、神話、伝説、あるいは物語としてではなく、歴史の形成者として再評価すべきと感じた次第である。
　蛇足だが、イングリッド・バーグマン主演の『ジャンヌ・ダルク』のDVDを探すことにした。

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