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和書文字渦新潮文庫

奇妙奇天烈な連作短編集。主人公は文字だ…

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奇妙奇天烈な連作短編集。主人公は文字だ。漢字が我が物顔で狂気乱舞する。表題作の「渦」からは、生命の躍動が連想できる。「昔、文字は本当に生きていた」という件と惑星の動きが、意識の中で同調する。
　本草学をもじった「本層学」、殺人事件をひねった「殺字事件」等、ナンセンス文学を超える表現が闊歩する。帯には「翻訳不可能！」とある。中国語では、かろうじて読めるようになるかもしれない。しかし、他の外国語へは本書の内容を変換することは無理だろう。　
　日本人として生まれてよかったと実感できた。また、日本語の特異性を改めて考えさせられた有意義な読書にもなった。異次元の「ことば遊び」を堪能できた。と同時に、沈痛にもなった。視点を変えれば、本書からは「ことば、もう生きていない」という悲壮感がにじみ出ているからだ。ことばとは日本語のことだ。
　教育あるいは実用という目的で殺された多くの漢字。その結果、知を守り育てる免疫力が弱体化してしまった。そこへ、カタカナというウイルスが侵入してくる。この病原菌がやっかいなのは、「舶来」、「最先端」あるいは「ファッション」等の、一見、魅力的な衣装を纏っていることだ。
　文字は、もともと支配者が統治するための武器だった。天邪鬼の私は、この日本語の混乱は、意図的に引き起こされてきたのではないかと邪推してしまう。大衆を愚民化するために。ところが、滑稽なのは、官僚の多くがこの感染に無頓着なことだ。漢字も、もがくようになってしまった。
　流行語大賞を受賞しそうな「安心・安全」は、気づいたのか、あるいは指摘されたのか、「安全・安心」という妥当な語順に落ち着いたが、社会に必要なのは「安寧」である。
　漢字という文字は、その表意の他に、「ことば」としての響きも併せ持つことを忘れてはいけない。本書は、黙読しながらも、ことば本来の機能である「読みかた」という音を思い出すための読書を提供してくれる。

タグ漢字、ナンセンス文学、ことば遊び

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