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和書日本アパッチ族角川文庫（改版）

本書は再読だ。初読は1971年の11月…

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本書は再読だ。初読は1971年の11月。刊行されたばかりの角川文庫版を購入。ところが、その本が手元に無い。転居の時に廃棄したようだ。内容の記憶も薄い。寓話的な社会問題への風刺が、当時の私には難解だったのだろう。
　再読のきっかけは、今年の10月に『現代思想10月臨時増刊号　小松左京-生誕90年/没後10年』を熟読したことだ。これがなければ、大作家の処女長編小説について、単なる「ドタバタ喜劇」という誤った印象を抱いたまま冥途へ行くことになったことだろう。
　角川文庫の改版初版を手にした。改めて、著者の当時の創作への熱意が伝わってきた。大きな再発見は、主人公がアパッチになる前に追放地で目撃する仲間の惨死の場面である。克明で残酷な描写は、スティーブン・キングの筆致を彷彿とさせた。その後の展開が、尋常でない方向へ向かうことを予感させられ、一気に物語に引き込まれる。
　改訂にあたり、現代から当時を振り返る視点の「解説」が掲載された。小松本人が「（本作品）を決して本格的SFとして認識していなかった」との回顧については、『ＳＦマガジン』（早川書房）の初代編集長、福島正実への気遣いだったことが推察できた。
　本編は、本人の弁はともかく、日本SF黎明期の記念碑的作品である。戦後の混乱で生じた困窮を生き延びるために、体内で極めて短時間に生じる進化。悠久の時間を必要とする緩やかな変化ではなく、「断続平衡説」（小さな集団で変化が突発的に起きるという進化理論）を見事に具現化している。この発想は、後の短編小説『牙の時代』にも引き継がれている。
　本編の趣旨は、日本の破壊と再生である。差別に起因した社会問題が、経済そして政治を壊滅的に巻き込んでいく。この歴史的な変貌の目撃者となった主人公は、語り部としての立場を「エピローグ」で明らかにする。その際、『日本滅亡史』という書籍を執筆していると吐露するのである。
　巻末には、若かりし頃の小松左京が高橋和巳と二人で並んだ写真が掲載されている。『邪宗門』が『日本アパッチ族』と物語の根底で一本の線で繋がれていた旨の紹介があって、仰天した。
　実は、本書を購入したのは、ウェブ紀伊國屋で注文した『邪宗門』（上下巻、河出文庫）を受け取りに最寄りの店舗に足を運んだ時だった。二人の交友関係に思いをはせることもなく。

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