読書という航海の本棚＞屋根裏 - 紀伊國屋書店ウェブストア｜オンライン書店

1 ～ 1件／全1件

和書尾崎翠集成〈上〉ちくま文庫

尾崎翠については、正月に読んだ『月光果…

コメントを全て表示

尾崎翠については、正月に読んだ『月光果樹園』（高原英里、平凡社）の「コメント」に「日本文学史で名前も取り上げられない小説家だったようだが、最近は再評価の動きで、ウェブ紀伊國屋でも主要作品は入手可能である。経歴を見ると決して短命ではなかったが、作家としての活動時期は短かったようだ。第六感も超える『第七官界彷徨』は、すぐにでも手にとりたい作品である。」と書いた。それからすぐに紀伊國屋ウェブストアで２冊を発注し、上巻から楽しんだ次第だ。
　古い作家ながら、聞くことも古書店でも見かけることが無かった。今回の初対面の印象から、「屋根裏部屋」を舞台にする作品もいくつかあるので、この忘れられた小説家を「屋根裏の詩人」と名づけることにした。
　「第七官界彷徨」は奇想の中編小説だ。物語は、主人公の若い女中の視線で語られるが、頻繁に、「おれ」とか「僕」で始まる男の発言が割り込んできて、一人称の衝突のような気配を感じ、私は、少々不安になった。
　その背景には、「分裂心理学」なる精神分析がある。著者が考えたものだが、「論文」の一部も記述され、疑似科学的な内容でもある。『ドグラマグラ』の匂いが漂ってきた。
　そして作品以上に印象に残ったのが、「第七官界彷徨」の構図を自ら描いた小説作法だ。今流行りの「マインドマップ」である。一種の創作術としても読めると思う。
　さらに、驚いたのは、「神々に捧ぐる詩」（1929年発表）の中で、英国の詩人、ウィリアム・シャープについて、「君は、文学史から振りおとされた微かな詩人」と書いていることだ。このスコットランド人作家の作品は、日本ではほとんど翻訳されていない。著者は、おそらく学生時代に彼の著作を読んで、影の薄さに共感を覚えたのだろうか。著者は「神秘詩人」と評している。
　一方、1965年に書かれた私的な書簡では、北杜夫の小説を堪能している様子が読みとれる。当時のベストセラー作家が精神科医だという二面性に魅せられたのかもしれない。
　私には、時間の経過はあるものの、この異なる文学的嗜好から、著者自身の精神自体も「分裂」していたのだろうと想像してしまうのである。この勝手な主観の是非の解は、下巻にあるかもしれない。

タグ屋根裏

1 ～ 1件／全1件

紀伊國屋書店

読書という航海の本棚

和書 尾崎翠集成 〈上〉 ちくま文庫

会員ログイン

和書尾崎翠集成〈上〉ちくま文庫