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和書逝きし世の面影平凡社ライブラリー

表題が醸し出す寂しさに誘われ手にとった…

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表題が醸し出す寂しさに誘われ手にとった。「逝く」とは「人が死亡すること」である。ここでは、他界したのは「世」、つまり「時代」である。そして「面影」を見せつけられる。「記憶にうかぶ在りし日の姿」である。挿絵が印象的だ。
　文学的な響きに聞こえるが、著者は、終わりゆく昭和の時代を立ち位置として、幕末から明治初期にかけて訪日し、当時の様子や印象を書き残した複数の外国人の記述を読み返す形式で、日本という文明が西洋化の波に溺れ死んだことを回顧する。
　かと言って、私的な思いをつづった随筆ではない。巻末の「参考文献」を見れば分かるが、本書は底なしの「学術書」である。表面的な日本人論や日本文化論、あるいは異人との交流記等を期待すると、頁をめくる手が止まってしまう。読み通すには、それなりの「覚悟」が必要だ。「日本人必読の一冊」と帯にあるのは、単なる宣伝文句ではない。
　引用される訪日外国人とその著書は、チェンバレンの『日本事物誌』やイザベラ・バードの『日本奥地紀行』、あるいはアーネスト・サトウのような有名な人物ばかりではない。
　日本史の教科書では取り上げないであろう海軍将校とか、東インド会社の社員、あるいは長崎の化学教師等、多くの人々が残した証言が引用されている。それらの原著は、歴史の流れの底に沈んでしまっている。その点、これらの名もなき人物まで網羅した「人名索引」はきわめて貴重な資料になる。
　チェンバレンが感嘆した日本人が「清貧の心」をもった国民であったという時代が心に映し出される。グローバル化という新たな黒船の到来やウイルス以上に蔓延っているIT化に惑わされることなく、「日本人」であることの誇りを再発見するための教科書でもある。

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