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和書旅の冒険 - マルセル・ブリヨン短篇集

マルセル・ブリヨンは、フランス人の幻想…

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マルセル・ブリヨンは、フランス人の幻想小説家。本書は表題作の他４編を収録した短編集。著者のことはほとんど知らずに購入したが、正解だった。
　５編に共通する行為は「旅」である。原題ではvoyage。英語でも同じスペルで通用する。仏語の語感は分からないが、長い旅のことである。この単語を見る度に、1977年にＮＡＳＡが打ち上げた太陽系を通過し太陽系外を探査するボイジャーを思い出すのだ。孤独で不安な飛行である。
　この短編小説集の舞台は地上だが、孤独と不安という脆い感情が随所で感じられる。「そこまで来るとわたしたちの通常の世界がおそらく別世界と出会う境目に行きつこうとしているように感じることがあった。」（p161「なくなった通り」）この感覚が、収録されたすべての作品の随所で感じられるのだ。
　旅の途中で訪問する街の様子は幾何学的に描写されるが故に、かえって不自然な雰囲気を醸し出す。日常的な生活が隠されているような印象を受ける。海の場面では、水が肌にまとわりつくし、火山の近くでは地面を焦がす熱の中で硫黄の匂いが鼻孔につきささる。箱根の大涌谷を思い出す。
　主人公をはじめ、他の登場人物達にも名前がないことも不安をあおる要素になっている。語り部は「わたし」であり、その目に入る人々は、「女」、「少女」、「男」である。「兵士」、「元帥」とか「騎馬の男」のような身分を示されることもあるが、氏名が分からないので、記憶に残る人物像がぼけるのだ。
　人と人との距離感が広がりつつある今、サイバー空間という「別世界」でアバターという化身で用を足すようになる近未来の危さを、そって囁いて教えてくれているような気がした。

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