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和書図説ヴィクトリア朝の女性と暮らし - ワーキング・クラスの人びとふくろうの本

「郷愁」ということばが好きだ。故郷では…

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「郷愁」ということばが好きだ。故郷ではなく、過ぎ去った時代に思いを馳せるという心情だ。英国のヴィクトリア朝（1837年～1901年）には、常に魅せられてきた。アリスが「不思議の国」と「鏡の国」に迷い込み、シャーロック・ホームズが活躍し始めた時代。怪しげな白黒の絵画を残したビアズリーも思い出さずにはいられない。
　女王の崩御と同時に終焉したこの異彩あふれた19世紀の60年間は、20世紀になると、英国でもすでに過去のものになっていたようだ。ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』（1927年）の巻頭の紹介を読むと、「消えてしまったヴィクトリア朝の家族の風景」という記載がある。（ペンギンブック版）世紀末をこえ、さらに加速した機械化、制度化、衛生化のような社会の変化が、人々の生活様式と意識を未来志向へと変化させたのだろう。
　本書は、この「失われた日々」へと遡る時間旅行である。表題に「女性」とあるが、男性や子どもたちの記述もあり、包括的に当時の人々の暮らしを眺めることができる。
　「女性」というただし書きは、複数の英国女流文学者の作品を随所に引用したからだと感じた。小説という創作での中で語られた多くの場面が、作家たちが目撃したり見聞したりした日常の再現だったことが分かる。未訳の作品の紹介も、巻末の「参考文献一覧」で容易に確認ができる編集も親切だ。ヴィクトリア期の代表者、ディケンズへの言及も多く、英文学の入門書としても読むことができる。
　階級が目に見える形で人々の生活を圧迫していた時代。工業化と歩調を合わせ、教育が進み識字率が上がるとともに、「向上ということばがヴィクトリア朝の美徳になった」旨の解説がある。(p92)　当時のベストセラーであるサミュエル・スマイルズのSelf-Help（1859）を紹介する件である。
　この本は、明治時代に日本でも翻訳されよく読まれたらしい。今でも『自助論』という邦題で複数の翻訳が入手可能である。昨年くらいから物議を醸してきた「自助」という考えは、決して新しいわけではないのである。
　時代としてのヴィクトリア朝は歴史になってしまったが、苦境にあっても、よりよい明日を夢見て賢明に生きた当時の人々の支えとなった「勤勉の誇り」は、21世紀の今も、その意義を失っていないようだ。「温故知新」とはこのことだろう。

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