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和書ユートピア文学論徹夜の塊（増補改訂版）

表題にある「ユートピア」に惹かれ、書店…

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表題にある「ユートピア」に惹かれ、書店で手にとった。文学論といってもロシアや東欧の作家や作品に焦点が当てられていたので、購入を少々躊躇したが、中学・高校とSFに夢中になっていた時期も、スタニスワフ・レムを除いては、共産圏の作家には全く無関心だったことを思い出し、反省と改善の意識で本書を購入した。
　著者の世代は「徹夜」が好きなのだろう。その若さはもうないが、勢いのある筆致に引かれ２日間で読み終えた。ユートピアあるいは反ユートピアの視点で書かれた複数のロシア人作家等の小説や詩等の紹介を読んで、この地域の文芸についての知識の小ささを痛感した。
　高校生の頃に読んだ『SF入門』（福島正実編、早川書房）で、ソヴィエトのSF作家も英米の作家と並列で紹介されていたことも思い出したので、今後、充実した索引を活用して気になった作品を、邦訳か英訳で購入していくことにした。「食わず嫌い」を気づかせてくれた読書となった次第。
　本書は2003年初版の「増補改訂」版である。2022年６月の刊行にあわせ、著者は、残念な気持ちで、ロシアによるウクライナ侵攻に関する見解を巻末に追記したことだろう。「ロシア離れ」の風潮にあって、「…本当のロシアは反戦・民主主義の国であること…本当のロシアは、スターリンの国でもプーチンの国でもなく、プーシキン、ドストエフスキー、チェーホフ、サハロフの国なのです」というインタビューの引用は、文芸を愛する多くのロシア人の魂の叫びの代弁でもある。
　社会制度としてのユートピアは文字どおり存在しえないかもしれないが、文学をとおして築く理想郷は、意識という高次元をとおし世界中の人々と共有できるような気がする。

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