ハリウッド映画では、ゴジラがキングコングと再び死闘することになった。『キングコング対ゴジラ』と言えば、小学生になる前の年に映画館で見た初めての東宝のゴジラ映画だった。当時のゴジラは、破壊を繰り返す邪神で、銀幕の上で逃げ惑う人々の表情が、子ども時代の悪夢の源泉になった。 日本では、『シン・ゴジラ』の大ヒットの後、ウルトラマンも最初の姿に戻ってスクリーンに舞い戻ってくる。特撮の神様、円谷英二の魂が世代を超えて、あらたな作品を生み出しているようだ。 本書は、簡単に言うと、アメリカ人のゴジラオタクが編集した特撮の神様の人生と作成現場の視点から作品の紹介である。若き母親に抱かれる円谷英二のあどけない瞳が、来るべき未来を見つめている1902年の写真から始まる。飛行機に夢中になった少年時代を経て、「活動」の世界へ入っていく。1933年にアメリカ映画『キングコング』に魅了され、本格的に特殊効果を研究し始める。 この成果は、早くも戦時中の作品で結実する。1942年の『ハワイ・マレー沖海戦』は、あまりにもリアルな映像に、終戦直後の米国占領軍将校が、実写だと信じ込んだくらいだ。 そして、原子爆弾の悲劇と第五福竜丸事件が、ゴジラを誕生させることになる。この衝撃的な映像に、米国のフィルムブローカーも注目し、1955年にはアメリカでも公開されることになる。最初のポスターにはGigantis, the fire monsterと印字されているのが興味深い。 本書では、東宝の怪獣特撮映画ばかりでなく、ウルトラマン等のテレビ作品にも幅広く言及している。ブースカの写真は1ページを独占だ。撮影準備、撮影中の休憩、着ぐるみから顔を出すスーツアクター達の笑顔、そして彼等への円谷の熱心な演技指導等、完成した映像からは分からない現場の雰囲気が数多くの記録写真から伝わってくる。 CGは映像を美しくするが、私は、ミニチュアを使う円谷英二が残して伝統的な特殊撮影が大好きだ。コンピュータ画像では出せないパノラマ感覚が味わえるような気がする。「日本の特撮には独特の美学がありました。それは着ぐるみ(スーツ)による演技です。」(石岡良治『視覚文化「超」講義』フィルムアート社)この見解は、私の思いそのものだ。『シン・ゴジラ』の後はウルトラマンの復活。円谷の遺産は受け継がれていく。