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和書ゴシックの解剖 - 暗黒の美学

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最寄りの店舗で偶然見つけて、躊躇なく購入。表題の「解剖」の二文字が刺激的だ。荒俣宏が記した自身の中学生時代の回顧を思い出した。「学校の図書室で片っぱしから解剖図を見つづけたことがある」（『稀書自慢　紙の極楽』中公文庫）の件だ。荒俣少年の思いを、文芸的に記述したのが「見えないものは見えるまでなんとか工夫して見えるようにしよう、というのが視覚文化からみた近代の定義」（高山宏『表象の芸術工学』工作舎）である。この両名（私にとっては二人の宏君）の意識を念頭に本書を紐解いた。
　「ゴシック」の起源、吸血鬼、人工生命、分身、廃墟、地下の六つの章に整理され、文献からの引用に加え、絵画、映画、ゲームとの関連にまで言及している充実した内容である。浅い俯瞰になっているが、２１世紀の視点での「ゴシック」入門書としてはよくまとまっていると思う。今まで読んだゴシックロマンスの名作の復習と同時に、新たな発見もあり、有意義な読書を堪能した。
　熟読するとゴシックを解剖的に説明した解説書ではなく、ゴシックという概念から、それらの作品を創作した作家の意識と、不気味さにおののきながらも恐怖を楽しむ大衆心理を暴こうとした著者の意図が見えてきた。「ゴシックを解剖」ではなかったのだ。
　副題は「暗黒の美学」である。この暗闇は誰にでも潜む心理だ。ゴシック小説、映画そして絵画は、明らかにすべきではない影の心象を暴いてきたことがよく分かった。我々は、皆、「ジキル博士とハイド氏」なのだ。その二面性を理解し、そして過ちを犯さぬように管理あるいは制御することの必要性を訴えるために、悪夢にうなされた作家たちが、数多のゴシック作品を残してくれたのだと思えてきた。
　『フランケンシュタイン』を書いたメアリー・シェリーの肖像画が紹介されている。彼女の思慮深い眼差しと、彼女が紡いだフランケンシュタイン博士が死体の部分から「人」を創造しようとする鬼気迫る場面とが、人間心理の表と裏の具体的な事例に思えてきた。この作品に魔術は出てこない。解剖された人体をもとへ戻し、電流で心臓を再起動させるという機械論的発想が、かえって痛ましい。
　作られた名無しの怪物に罪はなかったのだ。「人」が怪物なのかもしれない。

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