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和書コモンズとしての日本近代文学

著者のドミニク・チェンを知ったのは、ち…

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著者のドミニク・チェンを知ったのは、ちょうど１年前（2022年６月）に、松岡正剛が『電子の社会』（千夜千冊エディション、角川ソフィア文庫、コメント参照）で紹介した研究内容を読んだ時だった。
　この研究者の専門分野は情報メディアである。『謎床―思考が発酵する編集術』（晶文社）では、情報技術に焦点をあてた松岡との対談を楽しんだ。（2022年9月、コメント参照）
　本書は、チェン自身の単著。2021年８月の刊行だ。情報技術者が紐解いたIT化する社会での日本文学の読み方が、丁寧にそして回顧的に書かれている。
　背景にあるのは「コモンズ」。米国では大学の食堂を意味する単語だが、単なる学食以上の機能が提供される。著者が理事である「クリエイティブ・コモンズ」での活動の原点は、著者が学んだUCLAにあるCovel　Commonsでの意見交換と情報共有だったのではないかと勝手に想像している。
　この本は３部構成だ。著者自身による文学作品の解説。その作品の初版本の本文の写真。そして、原著の全文あるいは抜粋の再掲。この編集で、作品の羅列が３次元の空間として生き生きと浮かびあがる。カバーの下部に引用された九鬼周造が描いた「いき」の構造図が、著者の意図を表しているようだ。
　本との出会いは「偶然」の連鎖の結果だ。実は、この本は、きままな街歩きでの途中で見つけた小さな古書店（編境）で入手したものだ。「いき」な邂逅である。
　今回の大きな収穫は、本書によって、書棚で休んでいる複数の作品を再読する機会を得たこと以上に、電子化そして迷路化する文学のネットワークを、器としての書物を視座にする重要性を再確認できたことだ。

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