内容説明
戦場という,神なき終末世界を作ったのは人間に他ならない.画家の眼は戦争の真実をどのように捉えて表現に結びつけたのか.そしてそれらはなぜ私たちの心を打つのか.絵画,写真,彫刻,慰霊碑など200点超の戦争美術をカラー図版で紹介し,ゴヤやピカソ,フジタらによる名品の意味に迫る.戦争と美術の歴史を一望する.
目次
はじめに
第Ⅰ章 戦争美術のはじまり――古代からルネサンスまで
第Ⅱ章 惨禍はどう描かれたか――近世の戦争
第Ⅲ章 日本の戦争美術――中世から日清・日露戦争まで
第Ⅳ章 国家は美術と手を結んだ――第一次世界大戦
第Ⅴ章 美術作品と偏見――第二次世界大戦
第Ⅵ章 「どうかよい絵を描いて下さい」――戦時中の日本
第Ⅶ章 記憶の芸術――二十世紀後半から今日まで
おわりに――戦争美術とは何か
あとがき
主要参考文献
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
129
写真や映像が発明されるまで、実戦参加者以外は絵を通じてしか戦争を知るすべがなかった。欧米の美術館には古い時代からの戦争画が多数収蔵されており、ほとんどは王や将軍ら英雄的指揮官と戦勝場面が主題だ。正義の戦争で勝利した祖国を称えるために制作されたが、犠牲になった無名兵士はほとんど出てこない。むしろ藤田嗣治の回顧展で見た戦争画は、戦場の悲惨さが強烈に迫る画家の想像力に圧倒された。殺し合いの戦争も美しい絵画も人間の生み出したものであり、戦争の終りが見えない今日にあって、戦争画とは人の業の所産なのだと気付かされる。2026/01/27
ジュンジュン
18
破壊する戦争と創造する芸術がスパークした時、一瞬の閃光は至高の作品へと昇華した。「アレクサンドロス・モザイク」しかり。「アルプスを越えるナポレオン」しかり。だが、20世紀、二つの世界大戦で一変した。大量殺戮兵器の登場で現出したのは、英雄崇拝の幻想を打ち砕く地獄絵図。戦争画は英雄が屹立する歴史画から地獄を描く宗教画へと変わった。2026/02/06
どら猫さとっち
17
戦争と美術は、切っても切り離せない存在である。記録するため、反戦と平和を訴えるため、戦勝を記念するため、追悼するため、芸術性を追求するため。そのために創られたそれらは時代によって、作品が賞賛されたり批判されたりした。古今東西の戦争を題材にした作品を通して、世界の歴史の芸術を読み解く一冊。ピカソのゲルニカや藤田嗣治のリアルな戦時下の描写など、心をえぐられる作品揃いである。今も世界では戦争が起きている国がある。これから芸術家は、どんな作品を残すのか。できれば反戦と平和と追悼を描いて欲しいのだが。2026/01/25
奏市
12
人間の矛盾、不思議さ、併せ持つ善悪などを改めて学ぶ機会となった。休肝日で寝付けない時にしばらくこの本の内容について色々な考えが巡ったが、まとまりがつかない。どうして悲惨だったり恐ろしい描写でさえ美しいと感じるのか。どうやったらその創造性が生まれるのか。英雄の称賛、記録、プロパガンダ、反戦など様々な理由で戦争美術は作られてきた。「醜と美、破壊と創造、終末と再生という相反する性質が見られることにこそ、戦争美術の持つ最大の矛盾と魅力がある」岡本太郎の対極主義のことを思い起こす。東京国立近代美術館に是非行きたい。2026/03/20
バーニング
6
戦後80年を期に出版されたというよりは著者が大学院生だった時代から関心のあるテーマであり、かつ勤務先での神戸大学における一年間の講義をベースにした新書であるとのこと。古代から近現代までの西洋美術史をベースとしながら日本の戦争画の歴史(元寇から第二次大戦〜その戦後まで)を収めるという大胆な構成で、やや駆け足ではあるが図版の多くがカラーで掲載されていることもあり、一冊で深い学びの得られる新書だった。2025/12/19




