内容説明
S・T・バウムガートナーは九年前に先立った妻アンナの不在を今も受け容れられずにいる。書斎で彼女のタイプ原稿を読み耽り、物忘れがひどいなか、ルーツの地ウクライナを旅したときの摩訶不思議な出来事を書き残す。そんな彼に恩寵が……来るべき日を意識していたとしか思えない、オースター作品のエッセンスが宿る名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
旅するランナー
169
2024年に他界したオースターの最後の小説。70歳の哲学者·大学教授が、亡き妻や家族との思い出、友人女性への告白の惑いに揺れ動く姿。それが滑稽と哀愁を漂わせる。ま、完璧な人間なんていないから。作者による老いへの暖かい眼差しを感じる良作です。2026/03/01
どんぐり
87
オースターの遺作。災厄の朝に転がる焦げた鍋から、哲学者バウムガートナーの意識を記憶の底へと連れ戻す。18歳で出会い、40年の歳月を重ね、58歳で喪った妻アンナ。浜辺で最後に見たときの彼女の声と体はもうないのに、手紙や写真を通して甦り、死者と生者の境を曖昧にしていく。幻肢のように失われた愛をなお感じつづける男の漂流は、家族史の断片、失われた詩、看取りの瞬間へと収束し、記憶が人を生かしも呪いもするという真理を静かに照射する。やはり一筋縄ではいかない、オースターの小説だ。2026/02/05
やいっち
52
「ポール・オースター最後の長篇小説。」訳した柴田元幸氏によるあとがきには、中編小説とある。日本語訳では200頁の小説。最初は短編小説として書いていたが、いろいろあって中編小説となったようだ。「(前略)ルーツの地ウクライナを旅したときの摩訶不思議な出来事を書き残す。そんな彼に恩寵が……来るべき日を意識していたとしか思えない、オースター作品のエッセンスが宿る名作。」感想など野暮だろう。一気読みするような生粋の小説家の作品だったとだけ書いておく。あとは、読み残してる作品を追々楽しんでいく。2026/05/21
ヘラジカ
45
全く衰えぬ筆力。これが遺作か、と思うと遣る瀬無い。本当は『4321』と同じくらいとまでは言わなくとも一つの大長篇が存在して、この本は主人公を紹介する始まりの一章に過ぎないのではないか。しかし、”あの後”が読めないのは辛いが想像する楽しさを遺してくれたと考えると慰めにはなるし、大作家の最期の作品が「開けた」終わり方をしているのは感慨深いとも言える。著作の7割も読んでいるかどうかというくらいであまり熱心な読者だとは言えないが、やはりもう新作が読めないと思うと寂しいな。2026/01/13
キムチ
39
最後の方は流し読み∼予約入り故 返却延長不可💦2年前逝去した筆者の最期作品。個人的に彼の中期ものが好みだが・・「70歳を越えたオースター 新たな段階に入った」感を思わせるほどのエネルギッシュな執筆が展開。その中の一つがこれ。若い頃を回想する中で何かしら滑稽なほど慌てふためくガートナーが描かれる。主人公70歳 高齢男性~筆者の分身とも受け取れた。メモアールの中にウェットな情緒部分が散りばめられ 諦観とも揶揄っぽいとも取れるニュアンス。何かしらはざまにちらつく「ガン警察」の影。幾度もオースターの顔が脳裏に2026/03/03




