内容説明
戦前の『尋常小学国語読本』に採録されていた「松坂の一夜」は、真淵と宣長、二人の国学の巨人の劇的な出会いを描き、国民誰もが知る物語だった。
真淵に私淑していた宣長は、真淵が関西方面に旅をしていることを知って、松坂で宿願の対面を遂げた。
以後、江戸の真淵と松坂の宣長は頻繁に書簡の遣り取りを続け、真淵の薫陶を受けた宣長は、やがて『古事記伝』を著し、国学の大成者として敬仰される存在となる……。
この「松坂の一夜」は、理想的な師弟関係を物語る「史実」として流布したが、果たしてどこまで「真実」を伝えるものだったのか。
本書前半では佐佐木信綱らによって「美しい物語」が作り上げられる過程を明らかにする。
実際、真淵と宣長の交流は、つねに決裂一歩手前の危うさを孕んでいたのである。
後半では、二人の周囲にいた人物の経歴をたどり、二人の出会いに関する様々な「解釈」を取り上げる。
そこでは平田篤胤の宣長への「夢中入門」の逸話は、「松坂の一夜」を焼き直したものであったことも明らかにされる。
近世国学の白熱の一局面をあますところなく描き出した力作である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
はちめ
2
専門家のありがたさを感じる一冊。かつて有名であった「松坂の一夜」がどのように日本人に知られるようになったかなど、興味のない人にはどうでも良いことをしっかり調べて記述されている。学術的な著作であるが小説的な面白さも備えています。2017/03/30
良さん
0
戦前の教科書にも取り上げられ、美談とされた「松坂の一夜」の真実を、文献を駆使してさまざまな角度から分析する。資料の使い方は学問的だが、歴史の一場面が眼前によみがえるようで読み物としても面白い。 【心に残った言葉】本書の第一の目的は、「松坂の一夜」が説話化するメカニズムの解明である。…第二の目的は、「松坂の一夜」の物語の相対化である。(12頁)2017/07/31