内容説明
批評に背を向けても,私たちは生きられる.だが,もし批評がこの世に存在しなかったら,私たちの思考は,いまよりもっと貧しいものになっていただろう.学問とも哲学とも異なる,「自分で考えること」を手放さない批評――その営みが世界と切り結ぶ思考の原風景から,批評が私たちの生にもつ意味と可能性を明らかにする.
目次
Ⅰ 批評とは何か
1 この本のタイトル
2 僕が批評家になったわけ
3 文芸批評と批評の酵母
4 原型としての『徒然草』
Ⅱ 批評の酵母はどこにもある
1 対談
2 注
3 手紙,日記,きれはし
4 人生相談
5 字幕・シナリオ
6 名刺
7 科学論文
8 マンガ
Ⅲ 批評の理由
1 もし批評・評論がこの世になかったら
2 公衆,世間,一般読者
3 戦争と批評
4 無名性
Ⅳ ことばの批評
1 批評のことばはなぜ重く難しいのか
2 なぜやさしいことも難しいのか
3 なぜことばは二つに分かれるのか
4 電子の言葉の贈り物
Ⅴ 批評の未来
1 平明さの基礎
2 批評と世間
3 「面白い」と批評の基準
4 一階の批評へ
あとがき
加藤さんのことばのために……………高橋源一郎
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
74
批評とは何か。批評の存在意義とは? 自身の言論活動の原点までさかのぼり、批評の歴史や方法を探ることで考察を深めている。が、この本はまぎれもないことばに向き合うひとの哲学書なのだと思う。批評家である以前に、加藤氏は文学者としての出発点を持っており、その感性は本文中でも縦横無尽に発揮されている。「やさしいことばでむずかしいことを語る」ことのなんと大切なことか。亡くなられてしまったことが今になってつらい。2020/01/27
羊山羊
10
縦横無尽に展開される批評論が心地いいくらい我々を振り回してくれる。ある時は徒然草をとうとうと述べ、ある時はハイゼンベルクの日本評が顔を出す。油断できない著作。精読、というよりは様々な本をつなげて語る形と著者のどことなくふわっとした語り口に癒されながらも為になる1冊だった。2020/03/15
...
7
読みはじめの地点は筆者は我々のところにいた。ただ、章が進むにつれて、やはり本職の批評家、つまりは考えることの専門家、こちらの脳味噌だと全てを理解しきれなくなってしまった。ただ多分それでいいような気がする。山の麓から頂まで登らなくても別にいいかなと思わせるような優しさ、平明さが筆者さんにはあるのだ。何にだって批評は宿るということと、どこから考え始めても良いということ?2020/04/09
まこみや
7
橋本治が亡くなり、加藤典洋が亡くなった。批評家加藤典洋の名前を僕が意識するようになったのは、『敗戦後論』が最初だった。その後、彼の村上春樹作品についての分析や論評を愛読してきた。加藤さんによって、村上作品に対する瞠目すべき解釈と批評の面白さとを教えたもらったように思う。この『僕が批評家になったわけ』の中で、加藤さんは自らの批評に対する基本姿勢ー身体実感を伴った”建物一階”からの批評ーを説明している。もっと早く読めばよかったと悔やむ気持ちもあるけれど、彼の本の中には今も「加藤典洋」は生きていると信じたい。2020/03/19
Shun'ichiro AKIKUSA
6
加藤典洋。自分にとって位置づけがあまりぴんとこない批評家だったが、本書を読んで氏があげている「批評家」を見てなんとなくその理由がわかったかな。世代的な訴求力はどの程度あった人なんだろうか。2020/02/19
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