斜め論 ――空間の病理学

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斜め論 ――空間の病理学

  • 著者名:松本卓也【著者】
  • 価格 ¥2,200(本体¥2,000)
  • 筑摩書房(2025/08発売)
  • ポイント 20pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480843333

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内容説明

ケアは、どうひらかれたのか? 「生き延び」と「当事者」の時代へと至る「心」の議論の変遷を跡付ける。垂直から水平、そして斜めへ。時代を画する、著者の新たな代表作! 自己実現や乗り越えること、あるいは精神分析による自己の掘り下げを特徴とする「垂直」方向と、自助グループや居場所型デイケアなど、隣人とかかわっていくことを重視する「水平」方向。 20世紀が「垂直」の世紀だとすれば、今世紀は「水平」、そしてそこに「ちょっとした垂直性」を加えた「斜め」へと、パラダイムがシフトしていく時代と言える。本書は、ビンスワンガー、中井久夫、上野千鶴子、信田さよ子、当事者研究、ガタリ、ウリ、ラカン、ハイデガーらの議論をもとに、精神病理学とそれにかかわる人間観の変遷を跡付け、「斜め」の理論をひらいていこうとする試みである。著者は、2015年のデビュー作『人はみな妄想する』でラカン像を刷新し、國分功一郎、千葉雅也の両氏に絶賛された気鋭の精神医学者。デビューから10年、新たな代表作がここに誕生する。

目次

はじめに/第一章 水平方向の精神病理学に向けて──ビンスワンガーについて/第二章 臨床の臨界期、政治の臨界期──中井久夫について/第三章 「生き延び」の誕生──上野千鶴子と信田さよ子/第四章 当事者研究の政治/第五章 「自治」する病院──ガタリ、ウリ、そしてラカン/第六章 ハイデガーを水平化する──『存在と時間』における「依存忘却」について/補論1 精神分析とオープンダイアローグ/補論2 依存症臨床の空間──平準化に抗するために/おわりに/注/索引/初出一覧

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。

sayan

24
キーとなる垂直・水平・斜めの議論はケア領域を超える。日常生活に相手都合の押し付け=垂直の痛みと、同調を強いる横並び=水平の痛みはこびりつく。例えば物価高・税金高と上がらない所得は負担の垂直・水平の共犯関係で、より良い状況を獲得できる人は少数で多数は動くリスクを踏まえると現状維持以外に選択が難しい。本書は、ガタリの斜め横断性=ずらす・つなぐ・試すを通じ、閉塞状況打破に向けた可逆の設計を見出す。抽象的な議論だが、その射程は「生活の配線替え」に及ぶ。感情・思想・行動を同時に関係させ日常に斜めを見出してみたい。 2025/10/02

うつしみ

12
斜めとは身体的隠喩である。垂直に突出せず水平方向へ伸びていく「私」のあり方の模索である。論は主に3つの観点から展開される。①ハイデガーの読み直し;dasManへの頽落には存在免責という効能もある。むしろ存在免責されるからこそ、人は自己の責任を引き受ける事が可能になると考える。②生きのびるための思想;テロと親和性の高いヒロイズムは時代錯誤になっている。大義と共に散るのでなく、巧みな少数者として生き延び、社会の重層化を目指す方が生産的である。③言いっ放しの効能;ただ言葉にするだけでも水平方向への扉が開かれる。2025/11/23

msykst

11
相変わらずサクッと読めてしまうのが凄い。『創造と狂気の歴史』が西洋哲学史の裏面をなぞるような構成だったのに対して、こっちは臨床の話をベースにしながら最後ハイデガーを再読するような感じで面白い。学生運動を経た上野千鶴子と信田さよ子の理論や実践を垂直的な運動から水平的な運動への移行として描いていて、それを指して「一度限り決定的に」ではなくて「そのたびごとに」なんだ、って言ってたのが印象的だった。垂直(押し付け)でもなく水平(横並び)でもない「斜め」の肝要は多分、偶然性とか変容とか、そういう話なんだと思う。2025/10/14

tharaud

9
精神病理学という偉そう(垂直性)なところがあるがゆえに急速に忘却されつつある学問領域を「斜め」方向に救出しようとする試みだが、著者の知性をもってしてもなかなか難しいようだ。精神病理学かなぜ時代遅れとされてきたのかはさすが鮮やかに描き出されている。臨床においては、精神病理学の「深さ」には意義があると思うときがある。どのように次に繋いでいくかという課題意識が著者にはあるのではないか。2025/11/19

みき

8
ケアは「深層心理を探る」と言う言葉にあるように、もともとは垂直性を重要視してきた。ここに近年自助グループや当事者研究などの水平方向からのアプローチが現れた。作者はこれをハイデガー主義になぞらえて、現存在の本来的な生き方ではなく、非本来的な生き方が生き延びる方法と注目する。水平方向での他者とのコミュニケーションは、一つの語りであってもそれを聞いている人々全員に同じものを想起させ、ポリフォニーとなる。このポリフォニーが水平方向を垂直方向へと向かわせる。この均衡状態が「斜め横断性」であり、近年注目されるケアだ。2025/09/26

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