内容説明
熊に顔をかじられ九死に一生を得た人類学者の
変容と再生の軌跡を追ったノンフィクション
カムチャツカで先住民族を研究する29歳のフランスの女性人類学者が、ある日、山中で熊に襲われて大けがを負う。その日を境に西洋とシベリアの世界観、人間と獣の世界の境界が崩壊し……スパイの疑いをかけられてロシア情報機関の聴取を受け、たび重なる手術と事件のフラッシュバックに苦しみながらも、身体と心の傷を癒し、熊と出会った意味を人類学者として考えるために、再びカムチャツカの火山のふもとの森に戻ってゆく。
「熊は君を殺したかったわけじゃない。印(しるし)をつけたかったんだよ。
今、君はミエトゥカ、二つの世界の狭間で生きる者になったんだ」(本書より)
*ミエトゥカ:シベリア先住民族・エヴェンの言葉で「熊に印をつけられた者」、熊と出会って生き延びた者の意。ミエトゥカと呼ばれる者は、半分人間で半分熊であると考えられている。
【ジョゼフ・ケッセル賞、フランソワ・ソメール賞、マッコルラン賞受賞!】
【18か国で刊行、フランスのベストセラー!】
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
たまきら
29
カムチャッカ半島で現地調査をしていた人類学者がクマに襲われたーまるでフォークロアのような言葉に魅了されましたが、信じられないけれどこれ、ノンフィクション…!クマの攻撃のエピソードに呆然としつつも、ご自身をユーモアたっぷりに眺める視点に笑ってしまいました。全編にわたって、様々な感情をもたらせてくれる言葉に満ちています。再生の道のりと体の中に組み込まれた荒ぶる魂(熊)を見るーある意味人類学者の夢を体現させたのかな?ニヤリとさせられました。2025/10/13
Bo-he-mian
16
2015年、カムチャツカ半島でフィールドワークをしていたフランス人の女性人類学者が、山中で熊と遭遇し、格闘の末にピッケルで突き撃退するが、自身も顎の一部を噛み取られ、頭部に大きな損傷を受けながら生還する。その体験をした事がきっかけで、自分の魂が熊とつながり、自分の中に熊が入り込んでいると感じるようになる — 先住民エヴェンが言い伝える「ミエトゥカ」=半熊半人の存在になったと自覚する…その著者による自伝ノンフィクション。アニミズム的な豊かな精神世界を期待して読んだのだが、期待とはちょっと違った。2025/12/01
niki
8
観念的。最後まで答えはない。熊に襲われ顎を損失した29歳のフランス人女性人類学者。5年間に渡りカムチャッカ半島でフィールドワークを行い、現地の人と家族同然に過ごしている。筆者は若く頑固で一筋縄では行かない。読んでいて違和感を感じる場面も多々あった。彼女の体験や考えは誰も共感することができないと思う。自分の中に熊がいるという感覚、自分の体が新しく作り直されてゆく変容。目で見えることだけが真実ではないと、私も思うけれど。 太古も現代もカムチャッカでもフランスでも共通して言えるのは、母は強しということだと思う。2025/11/29
田中峰和
7
日本各地でクマ被害が続出している。ヒグマはツキノワグマの2倍、カムチャツカヒグマはその2倍ほどもある。そんな巨大なクマに襲われた人類学者のナスターシャはシベリア先住民族エヴェンのところでフィールドワークをしていた。彼女はヒグマに頭部を噛まれあごの骨が砕ける重症を負ってヘリコプターで搬送されるが、外科手術も克明に描かれ、恐怖を感じさせる。アイヌ民族がヒグマを神と崇拝するように、エヴェン人も神聖化している。ナスターシャ自身ヒグマの夢を見続け、合体したように感じ、なかば狂気に陥る。恐怖が人格まで変えたようだ。2025/10/17
チェアー
5
人と獣。どこが違うのか。まったく違うのか。熊は他者の瞳に映るものを恐れるという。そこには自分の本当の姿がある。それを見ることは嫌なことだから。 土地と人と獣は渾然一体となって境目はない。人間だと思って入った土地で人は人のみではなくなる。すべてが一体となって言葉にはできないものになる。言葉にしてはならない、禁忌。2025/10/07




