内容説明
一七世紀,日本で商業出版が始まった.人びとが本によって知を共有する〈書物の時代〉の到来である.今日まで続くこの大変革は,読書という営みを通して心を治め,家の存続を願い,世界と自己との関係性を問う,「思想主体」としての民衆を列島各地に生みだした.「書物の思想史」を提唱してきた近世史家の重要論考を集成.
目次
はしがき――〈生きかた〉としての思想史
序 章 日本近世の時代環境――『農業全書』から考える
はじめに
1 『農業全書』はいかにして作られたのか
2 『農業全書』における畜産の位置
3 非畜産農業の成立と展開
4 家畜化と栽培化――品種改良の思想
5 多品種複合農業の成立
むすびにかえて
コラム 一七世紀の時代・社会・文化をどう描くか
第一章 書物がひらいた思想形成――軍書・医薬書・天文暦書から安藤昌益へ
はじめに――問題意識のありか
1 書物の文化史から思想史へ――思想形成の契機としての書物
2 軍書の歴史的位置
3 医薬書・天文暦書の歴史的位置
4 安藤昌益の主体形成――政治常識との葛藤
むすびにかえて
コラム 軍書を携えし者たち――安藤掃雲軒という人
第二章 『浮世物語』から時代を読む
はじめに
1 近世人の読書
2 『浮世物語』主人公瓢太郎の思想形成
むすびにかえて
コラム 近世における楠正成伝説
第三章 書物がもたらした社会変容――歴史を作る,主体を作る
はじめに
1 思想形成の一契機としての書物
2 日本近世の社会変容と書物
3 近世人の思想形成と歴史
むすびにかえて
コラム 貝原益軒――時代を創り,人を作る
第四章 一上層農民の蔵書から――「書物の思想史」研究のために
はじめに――近世人の思想形成と書物
1 『書物目録』から何がわかるのか
2 寺澤家の蔵書とその形成
3 寺澤直興の思想形成と書物(1)――安永期
4 寺澤直興の思想形成と書物(2)――寛政期
むすびにかえて
コラム 寺澤直興はどのように書物と出会ったか
第五章 天道とコスモロジー――神・儒・仏の交錯
はじめに
1 「太平記読み」の時代
2 天道委任論の形成と定着
3 天道・コスモロジーと思想形成
むすびにかえて――天道委任論と「天地の子」論
コラム 佐藤直方――みずからの「合点」を求めた孤高の学者
第六章 「日本」意識の形成――近世における家・国家・地域
はじめに
1 「家」意識の形成――近世人の歴史的環境
2 「家」の歴史叙述――社会通念としての「家」意識
3 「家」を遡る――家系図の時代
4 「年代記」の思想――「大日本国」の歴史と向き合う
5 「天地の子」意識の形成――近世人の思想形成とコスモロジー
6 「天地の子」をめぐる葛藤――安藤昌益の思想形成
7 「日本意識」の形成と地域――地域特性という視角
むすびにかえて
コラム 地域意識を問い直す
終 章 近世政治常識のゆくえ
はじめに
1 近世における政治常識の形成
2 「仁政」のゆくえ
3 「孝子」顕彰の時代
4 「天道」のゆくえ
むすびにかえて
注
初出一覧
あとがき
用語リスト