内容説明
矢部貞治(1902~67)は、政治に直接コミットした最初の研究者の一人である。1926年に東大法学部に助手採用された矢部は、助教授時代の35~37年にヒトラー擡頭下の欧米に留学、大きな政治の変革を見る。帰国後39年からは教授に就き政治学講座を担うなか、首相として”全盛期”にあった近衛文麿のブレーンとして昭和研究会に参加。現実政治のなかで実践を試み、国内・国際新体制を立案する。
敗戦後は自らの責任を感じ東大を辞職。同志を集めて日本再建についての研究を始めた。1950年代半ば以降は、拓大総長や早大教授などを歴任しつつ憲法調査会、選挙制度審議会など政府委員を務め、またメディアでも積極的に発言し、現実政治の変革を求め続けた。
本書は、矢部の生涯を通し、日本における政治と知識人の関係を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
politics
5
戦前戦後と異なるかたちで政治に携わり続けた政治学者、矢部貞治の評伝。戦前では昭和研究会を中心に、戦後は憲法調査会など、審議会での活躍が多くあり、前者では統帥権問題に戦前の時点で向き合っており、後者では今現在でも懸案である憲法改正問題に貴重な提言を残している。また二大政党制についての意見も、左右問わず傾聴に値するものだろう。ラスキに始まりE・H・カー、リップマンなどの理論を熱心に吸収している点も重要だろう。丸山眞男や清沢烈、文学者らとは違った「知識人と政治」論が描かれた出色の一冊と言えよう。2023/03/24
ア
4
戦前戦中の昭和研究会や、戦後の憲法調査会・選挙制度調査会をはじめとする、実際の政治と関わりを持ち続けた知識人についての評伝。未だ当時の人たちの「支那事変」観や「大東亜共栄圏」観はなかなか理解できない部分があるが、勇気を持って多くの評説を発表し、実際の政治にコミットした生き方に敬意を表する。 あと、近年の国内外の状況から、20世紀の戦前戦中戦後を生きた人々の歩みを丹念に追うことが必要なことだと思っている。2023/01/04
バルジ
3
研究者によるおそらく初めての矢部貞治評伝。従来戦前の近衛新体制運動への関与を中心に語られがちであった矢部の軌跡を戦後のその死までを描くことにより、「協同体」と「民主主義」への一貫した思想を持ち実践していた姿を活写する。戦前は東京帝国大学法学部の教授として協同体的衆民政の現実政治への実現を企図し近衛文麿と連携、一方大東亜共栄圏実現に向け海軍のブレーンとしても活躍する。戦後は「浪人」となり言論活動に注力する。戦後に展開した矢部の二大政党論と憲法改正論は現代でも参照すべき価値のあるものである。2022/11/10




